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正直に言おう。最初は、詐欺師か何かだと思ったのである。
美しい女性なら会場にいくらでもいる。若い女性も少なくない。それなのに、私のような太っていて、醜くて、コミュニケーション能力もないおばさんに――彼のようなイケメンが話しかけてくれるはずがない。そんなものは、ご都合展開で成り立つ一部の少女漫画でのみありうる展開だと。
「……わ、笑えるはず、ないです」
ひっくり返った声で、私はそう答えたのだった。
「だって、わた、私……。太ってるし、喋るのヘタだし、年もいってるし。こんな女と、結婚したい人なんて誰もいない。そんなこともわからずに、婚活パーティになんてきてしまって……恥さらしもいいところだわ」
「でも、結婚したい気持ちがあるからいらっしゃったのでは?」
「そうよ。でもそれも、親に言われて仕方なく来ただけなんです。こんなことなら、せめて年齢フリーの婚活なんかに参加するんじゃなかったわ。それと、太っている人限定なら良かったかも。体重九十キロの女に需要があるかはわかりませんけど」
ちなみに私の身長は155cm。長身だったなら多少体重が重くてもありだったのかもしれないが――まあお察しである。
ストレスがかかるとすぐ食べることに逃げてしまう。そして、運動してもちっとも痩せない。昔から私は、そんな私が大嫌いだったのだった。
「そんなこと言ったら、僕が参加できないじゃないですか」
すると、彼は困ったように眉をひそめた。と、いうことは彼は体重九十キロないのだろう。――まあ、どう見ても痩せているし、身長180cm以上で60キロ以下とかそんな雰囲気ではあるが。
「そして、貴女と出会うこともできませんでしたよ」
「……えっと、私お金持ってませんよ。だから、投資してくれとか、何か売ってくれとか言われても困ります。それとも宗教かしら?ごめんなさい、そういう勧誘は全部断ることにしてて……」
「違いますって。僕は、あくまで貴女自身に惹かれると言ってるんです」
その、と。彼は頬を染めて、視線を逸らしたのだった。
「声。……可愛いって、言われません?僕……容姿とかお金とかそういうことよりずっと……声に惹かれるんです。おかしいでしょうか」
「え」
私はあっけにとられた。声。実は、何の取り柄もない私が唯一、自分の中で好きになれることがそれなのだった。子供の頃から音楽が好きで、歌うことが好きだった。運動神経も悪く、学校の成績も悪い。そんな私も、歌だけは先生や家族に褒められることが多かったのである。
同時に、学生時代にネットでボイス声優のような活動もしていた。あくまで素人の活動ではあるが、人様のボイスドラマに参加するのは楽しかった記憶がある。
「……私の、声。そんなにいいと、思うの?」
「はい」
私の問に、彼は顔を真っ赤に染めて言ったのだった。
「さっきテーブルでお話した時から気になっていました。あの、僕と、いろいろお話してもらえませんか……花田公子さん。貴女のこと、もっともっと知りたいんです」
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