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こえ、こえ、こえ。
風一郎と私が出会ったのは、ある婚活パーティでのことだった。
結婚式の披露宴でも使いそうな、かなり広いパーティ会場。円形のテーブルを囲んで、何人もの男女が自由に座席を行きかい、楽しんでいる。そんな中、私は一人ぽつんとはしっこの席に座って後悔していたのだった。
――来るんじゃなかった、こんなところ。
四十八歳。私が完全に嫁に行き遅れてしまったのには理由がある。
まず第一に、見た目が綺麗ではないこと。太りやすい体質で、自分で言っていても悲しくなるが“ぽっちゃり”の域を超えていると思う。顔だって可愛くない。鼻も潰れたような形だし目も小さい。肌も荒れやすくてにきびだらけ。
第二に、トークが上手い方ではないこと。あがり症で、慣れ親しんだ相手ではないとすぐにきょどってしまいがち。仕事でも、電話一つ取るたびに頭が真っ白になってしまって相手の話がろくに聞き取れない。データ入力でもすぐにテンパってミスばかり。話すのも苦手なら細かな作業も苦手、そういう人間だった。
まあようするに、モテるような要素が一つもないのである。
多少不細工でもおばさんでも太っていても、喋りが面白ければ挽回の余地はあったかもしれない。
しかし、今回の婚活パーティでもそう。何人かの男性とローテーションで話すタイミングがあり、そのあと自由交流時間になるのだが――どの男性と話してもキョドってしまって、まともに会話が繋がらなかったのである。
大体、頭の良い男性たちが興味のあるスポーツだとか経済だとか株だとか、そういうことも一切わからない。上手に相槌を打つこともままならない。そんな人間に、一体誰が興味を持つだろう。
――お母さんが、どうしても行けっていうから来ちゃったけど。……本当に失敗した。私なんか、こんなところに来たって笑われるだけに決まってるじゃない。
友人の結婚式に着ていった派手な緑色のドレス。これも悪目立ちしていたかもしれなかった。いずれにせよ、今の私は他の女性たちが積極的に男性に声をかけにいったり、逆に声をかけられたりしている中誰からも興味を持たれず隅で小さくなっているだけの存在だ。壁の花、なんて言葉さえおこがましい。こんな醜い花、世の中にあるはずもないのだから。
――結婚なんかしなくてもいいじゃない。本気で、こんな私を好きになってくれる人なんかいない。私だって……誰かを本気で好きになれることなんかきっとないのに。
そう、まさに。そうやって涙ぐんでいた、その時だったのである。
「どうしたんですか?……何故、泣いてるんです?」
「え」
現れたのである――彼が。
すらっと背が高い、グレーのスーツが良く似合う彼、風一郎が。
「貴女に、そんな悲しい顔似合いません。どうか笑って頂けませんか」
理知的な眼鏡。すっと通った鼻筋、白くて透き通るような肌。まだ若い、二十代前半にしか見えないような美しい青年。歯の浮くようなセリフさえ様になっている。
私は思わず、ぽかん、と口を開けて固まってしまったのだった。
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