終末は神とワルツを

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人物紹介 ・新田旭(にったあさひ) 学園の養護教諭(つまり保健室の先生)。実は天界から追放された元天使。ある過去により数千年の時を経て人間を見守っている。元天使なので性別はない。今は都合上女性型。 ・パルウス 新田の使い魔。いろいろ化けられるけど黒猫が多い。いつもは新田の机の上の招き猫の置物になっている。人型の時は少年。 ・西園寺明美(さいおんじあけみ) 聖踏学園の3年生。悪魔を呼び出したため命を失う。 ・水無瀬玲(みなせれい) 西園寺の親友。2年生の時に事故のため死去。 ・神谷美香(かみやみか) 倫理教師。新田の天敵。 ・シェムハザ 西園寺が呼び出した悪魔。 **************************************************** 「間に合わなかった…!」 しっかりと施錠された窓ガラスに手を翳す。 するりと魔法のように鍵がスライドし、窓が開いた。 夜になってもまだ熱を孕む空気が、窓の内側に流れ込む。 レースのカーテンが揺れ、その間から目をそむけたくなるような惨状が闇の中から浮かび上がった。 そして何よりも鼻に付くのはむせ返るような血の匂いだ。 常人であれば、叫び声を上げるであろうその中に、一つの影が音もなく滑り込む。 フードから覗く髪色は金。月明かりに長くゆるやかにウェーブを描き透けるように輝く。 白く透き通った頬、涼やかな双眸は厳しく目の前のものを見つめていた。 「マスター…これ」 影の肩口が分裂して猫の形をかたどり、するりと足元に降り立った。 黒猫は、少年のような声で、マスターと呼びかけた人物をふり返って見上げた。 「ああ、間違いないな」 部屋の主である、少女はベッドと机のあいだのスペースに俯せに倒れ事切れていた。 その周りには血文字で描いた何処の言葉ともわからない円形の文字の羅列。 少女は自身の体をあらゆる箇所を傷つけて、自らの血でこの陣を描いたようだった。 金髪の人物が少女のもとに近づき、膝をついて顔を覗き込んだ。 静かに首を振り、もう何も映すことのない瞳の瞼をそっと手を翳して目を閉じさせた。 その時、金髪の人物は跳ねるように顔を上げた。同時に黒猫は身震いして主人の肩口に戻る。 階段を誰かが上ってくる足音、微かに聞こえる呼び声が近づいてくる。 マスターと呼ばれた人物は大きく息を吸い込んだ。長く長く吸い込む。眉間に皺が寄り、苦悶の表情を浮かべながらも続けた。 次第に、血文字の陣もそこら中に飛んだ血しぶきも全て消えていった。 息を乱し、膝をつく。 窓の外の闇の中に影が一つ消えたのと、部屋のドアが開けられたのは瞬き一つの差だった。 残ったのは、部屋の真ん中で冷たくなった少女だけ。 程なくして辺りは救急車両のサイレンが鳴り響き、夜の静けさは破られた。 けれど、既に姿を消した奇妙な来訪者の耳にはもう届かなかった。
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