終末は神とワルツを

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放課後、生徒たちがそれぞれに校門を出ていく様子が屋上からはよく見えた。 部活が一緒なのか、数人で固まって喋りながら帰る集団。 ひそやかに笑いながらゆっくりと歩く二人組。 一人の者、用があるのか急いで小走りに出ていく者。 その中に、長身に小柄な影が付きまとう二人が見えた。 神谷は自然とその二人を目で追った。 あの二人の中に自分の記憶はない。 ただ、大天使ミカエルとして認識されているだけだ。 なぜなら天界を追放された者は、その天界人間の情報を消されるからだ。 ――自分が消えてしまったら無かったことになってしまう。 そう言う自分すらも消されている記憶があることに、気付くことはない。 かつて天界で自分たち三人が親交していたということは、今や神谷だけが覚えている記憶だ。 シェムハザなどは、自分がかつての友人の手によって、地下深くに封じ込められていたということを知ったらどう思うだろうか。 あの時のように迷いなく真っすぐに自分の喉元に向かって切っ先を突きつけるに違いない。 そんなことを思い浮かべると、何故かそんな日が待ち遠しく思っている自分に神谷は少しばかり動揺する。 こんな気持ちは何故か後ろめたく、主に背いている気さえした。 そんな時は、この屋上に来て、日が沈むまでいることにしている。 浮かんでは消える詮無い想いが、太陽とともに闇に沈めることができるからだ。 あの時、もっと二人を強く引き留めていれば。 もしくは自分もあの一団に参加していれば不用意な行動をする二人を止められただろうか。 そうしたら、あの隣に自分もいる未来があったのだろうか。 懐かしいお茶の香りがまだ残っているからか、今日は一段と強く思った。 「あの子のお茶、まったく味が変わらないなんてね」 神谷は微かに笑った。 「ミカエル様、主がお呼びです」 無機質な伝令の声がした。 「わかったわ」 どうやら、今日はこの思いは抱えていく他ないようだった。 神谷は名残惜しそうに、二つの影を振り返り、天に消えた。 おわり
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