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「新田先生、そんなに嫌がることないじゃないですか?」
神谷が可笑しそうに含み笑いをしつつ言った。
放課後。全ての授業は終了し、グラウンドから運動部の掛け声が聞こえてくる。
小会議室にて、新田は神谷と向き合っていた。
さっきのは神谷から一番離れた席に座った新田に対して発した言葉だった。
「それじゃあ、打ち合わせしにくいですよ」
「……いえ、充分できますから」
「仕方がないですねえ。新田先生子どもみたいですよ」
結局、二人しかいない会議室では、距離はあれども、会話は支障なく行うことができ
打ち合わせは問題なく終わった。
どちらにしても、二人で暫くは連携をとる必要があり、新田は始まる前からうんざりした。
「西園寺さんの件は、本当に残念でした」
「ええ…」
「とても素直で素敵な子だったのですが」
書類を揃えながら神谷が言った。
「実は最初は自ら命を絶ってしまったのかと懸念いたしました」
「はあ…」
「幸いに病死だったとのことでしたが」
幸い?
神谷の言葉に引っかかり、顔を上げた。
「自死では…救われませんから」
耳を疑う。
「自死だろうと、病死だろうと、西園寺が亡くなったことには変わりないでしょう…」
強めの語気で反論する。
「いいえ、全くちがいますわ」
ところが、神谷はそんな新田を意に介さず言い切った。
その目に迷いはなく、一筋の疑問を挟む余地もなかった。
その目を前に、新田は唐突に胃の腑から湧き上がるような強烈な嫌悪感を覚えた。言葉にならない、けれどどこか既視感がある感情だった。
何か反論したくても、喉は震えるばかりだった。
そうしているうちに、「では、明日から宜しく。新田先生」と言って、神谷はドアを開けてその向こうの夕闇に消えていった。
残された新田は、明日なぞ永遠に来ないことを願うばかりだった。
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