一ヶ月後に結婚?

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一ヶ月後に結婚?

 それから二か月後、兄の結婚式が執り行われた。  末端とはいえ貴族の結婚式、やろうと思えばこんなに急ピッチでできるものなのかというほど、準備は大変だった。もちろん兄の代わりにその手配のほとんどを私が行った。  兄の奥さんは男爵の娘だった。我が家と同じ男爵だが一代貴族の娘で、つまり父親だけが男爵と呼ばれるが家族そのものは平民なのだ。ややこしいが、その父親が功績を上げた素晴らしい人だという事実がある。  しかし身分など些末な問題だった。  兄と支えあい、幸せになってくれるなら何者でも良かったのだが。 「アラーラ、貴方早くお嫁に行ってくれないかしら。新婚家庭に小姑がいちゃ迷惑なのよぉ?」  義姉にとって私は迷惑な存在だったらしい。  家はそれなりに広いし、会わないと決めたなら会わなくても過ごせる程度には使用人もいるのだが、義姉にすれば存在する事自体がうっとおしいらしい。  今日もわざわざ執務室にまで足を運び、ソファにどっかりと腰を下ろし、メイドにお茶を淹れさせて、私に不満をぶつけるのだ。  曰く、兄が遊び歩いて帰ってこない。  曰く、私が陰気なのが気に食わない。  曰く、食事が思っていたより貧相だ。  曰く、ドレスがもっと欲しいんだから金を出せ。  要約すればこんな感じだった。  兄がフラフラしているのは結婚前、いや母が生きている時からだったし、私が陰気なのは母の呪いのせいだ。  金が出せないのは昨年この領地が寒波に見舞われて作物の収穫量が減ったからだし、これは天候によるものだから仕方がない。  使用人を解雇すれば資金が出るなどと言われても、その使用人だってここの領民であり、この家が雇用を生み出している。そんなに簡単に首を切る事などできない。  丁寧に紙に書いて説明しても、義姉には読む気がないのか一瞬で紙は床に舞う。  この夫婦は、やることがなんだか似ている。  そんな事を私が考えているとはつゆ知らず、姉は「もういいわ」とソファを立った。 「どうせ貴方は一か月後ここからいなくなるんですもんね。それまでの辛抱よ」  兄からは「妹が執務を譲らない。結婚まで仕方ないから預けている」と聞いているらしい。初耳だ。とりあえず兄にでも理解できるように、領地経営に関する書籍を取り寄せてマニュアルを書き残しているから問題ないはずだが、今この家に無駄遣いをする余裕はない。  兄の結婚式も本人たちの希望を汲んで随分華やかにしてしまい、出費がかさんでいる今、できたら慎ましく暮して欲しいものだが。 「ねえ知ってる? 貴方の嫁入り先は商人の家なのよ。貴族と縁を持ちたいからって、随分あの人に支払ったらしいわよ。笑っちゃうわよね」  コロコロと笑う義姉の言葉に驚いた。  それは初耳だ。  しかし確かに兄が取り付けてきたという結婚は、その後なんの進展も聞かなかった。結婚にはどうしても金が動くし、私が嫁ぐとなれば持参金が必要だ。だから何度も兄をせっついたが、一切教えてくれなかった。 「だから安心して。貴方は持参金も、ドレスも、メイドも、何も持っていかなくていいの。その身一つで嫁ぐから、お金がかからないどころかお金が入る金の卵って訳」  驚愕にポカンと口を開く私に、義姉は勝ち誇ったような顔をした。 「一か月後って聞いているわ。それまでにせいぜい、貴族として最後の生活を楽しみなさい」  そう言って彼女は執務室を後にした。  噓でしょ。  私は絶望するしかなかった。
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