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雨降るネオン
僕は走っていた。
雨の降る、ネオンの街を。
雨が一滴、一滴僕の身体を濡らしていく。
髪の先から零れる水滴が、足元に落ちて弾ける。
立ち止まっては、また走っていく。
誰も僕のことを知らない、何処かに行くんだ。
冷えた水がスニーカーに浸み、体温が奪われていく。
ふと僕は、自分の目に水が張っていることに気付いた。
こんなにもさみしいのは、こんなにも哀しいのは、どうやら雨の所為だけではないらしかった。
僕は泣いていた。
そう自覚した瞬間、足元がぐらついた。
水溜まりに滑り、無機質なアスファルトの硬さが膝に触れる。
道路の水面は揺れがおさまると、元の鏡のような色に変わった。
そこに映ったのは、どうしようもない僕の姿。
全身びしょ濡れで、何もかもを捨ててきた僕の姿がそこには在った。
そんな自分を嘲笑いながらも、立ち上がって前を見る。
雨は一段と強く、打ち付けるように僕の身体を濡らした。
時刻は深夜一時。
こんな街の中一人なのだから、補導されたって可笑しくない時間だろう。
でもそんな心配はもういらない。
辺りに、人影は見当たらなかった。
居そうなのは幽霊か何かか、というような雰囲気が漂っているだけだった。
口許に笑みを浮かべながらも走り続けていると、車が一台、僕の前に止まった。
えっ。
僕が不審がっていると、運転席のドアがゆっくりと開いた。
そこにいたのは謎の男。
「おう」
思わずたじろいだ僕の姿を、下から上まで撫でつけるようにじっくり見た後、にやりと笑い男はもう一度言った。
「よう、佑。久しぶりだな」
僕はフリーズした。
この人誰だ。
ていうか、何で僕の名前知ってる。
なんだか大きくて髭を伸ばしていて、無駄にキャラの濃いー
その男はサングラスを手元でふらふらとさせながら、わははと笑った。
僕は笑わない。
笑えない。
こんな状況で、僕の旅路を邪魔されては困る。
僕の最期くらい、好きにさせてくれ。
お願いだから。
「じゃあ、僕はこれで」
逃げようとしたのに、気付いた時には男は隣にいた。
怖っ。
そう思ったのもつかの間、男は僕の服をむんずと掴み、無理矢理自分の方に向けた。
「乗ってけって」
にやにやと僕を眺めながら突拍子もないことを言ってくる男のことが、心底分からなかった。
意味不明。
「ほら、乗ってけって」
車の方を指差し、助手席に乗れと言ってくる。
いくら反抗しても、鋼のメンタルで僕を離さない男。
遂に僕は折れ、助手席に乗ることになってしまった。
最初から当てのない、いや当てはあったけどー
そんな旅なのだから、もうどうにでもなれ。
そう自分に言い聞かせ、投げやりな気持ちでシートベルトに手をかけると、男は言った。
「おっ少年、偉いな」
わははと笑い、ハンドルを握る男。
何だこの人、マナーも守れないのか。
今日一人で最期を迎えると、ずっと前から決めていたのに。
どうしてこんなことに。
ちらっと男の横顔を盗み見ると、やけに楽しそうだった。
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