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晴れない明日
僕が無言で窓の外を眺め続けているので、おじさんはつまらなそうにしていた。
下手な口笛を吹いてみたりと、どうにか僕の興味を引かせようとしてくれているのが分かったけれど、無反応を貫いた。
だって終わらせるために、逃げるためにここまで来たのに、今更人に気を遣ったら疲れるだけだ。
それにこのおじさん、強靭メンタルの持ち主だし、大丈夫でしょ。
そんなことを考えていると、おじさんは口を開いた。
「なあ、少年。さっきは何をしていたんだ?」
あまりにもストレートに聞いてくるものだから、心がヒヤッとして動揺する。
数十分前の冷たさが蘇ったような感じだった。
少しは遠慮っていうものがあるんじゃ。
気遣いくらいはしてくれ。
そう思いつつ、一応答えることにする。
「別に。ただ走ってただけだよ。それに、おじさんに言ってどうにかなることでもないし」
「そうかぁ」
うーん、と何か考え込むような仕草をするおじさん。
キュ、キュ。
ワイパーが往復する音だけが、車内に響き渡る。
なんだか可笑しくて、くすっと笑ってしまう。
「いやぁ、俺も思い出すことがあるからなぁ。ガキの頃は俺もしょっちゅう家出して、親父を困らせたもんだ」
「おじさんと一緒にしないで」
すぐさま言い返すと、おじさんはまた、わははと豪快に声を上げた。
「僕は家出をしてるわけじゃない」
あっ。
気付いた時には、言葉が口をついて出ていた。
「ほう?」
あからさまに僕の顔を覗き込むおじさん。
人が傷心を抱いているのに、そこに土足で踏み込んでこようとするので苛々した。
僕に、明日を迎える資格はない。
自分で決めたことなのに、もうその計画は崩れかけていた。
今日で、もう全部お終い。
そう思って、いたんだけどなぁ。
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