俺も知らない

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俺も知らない

「なぁ少年。死にたいと思ったことはあるか?」 突然の質問に動揺したのを悟られないようにしながら、心の底で毒づく。 そんなこと、毎日思ってるよ。 喉元まで出かけた言葉どうにか飲み込んで、答える。 「何急に」 「いやぁ、なんだか聞いてみたくなってな。俺には随分とお前が大人びて見えるから」 「へぇ」 「おじさんは死にたいなんて思わないんでしょ?」 どうせ悩みなんてないから、知らないやつに変なことを興味本位で聞けるのだ。 「なんだ少年、こいつにはどうせ何の悩みもないんだろう、みたいな口ぶりだな。わはは」 「…」 やっぱり僕、この人苦手だ。 相手の心を、1㎜も考えてない。 まぁこの際、僕も同じなんだけど。 「俺ぁ死にたいぞ。誰だってそうだ。とても死にたい」 僕は無言で、続く言葉を待った。 「だがよ、そう簡単にはいかない。生きるのも難しいけど、死ぬのはその何倍も難しい」 「そうだね」 「あぁそうだ」 正直びっくりしていた。 あんなおじさんがこんなことを僕に、しかも何も特別なことを言うような感じじゃなく話したことに。 「理由もなく寂しくなるのも辛くなるのも嫌になるのも、普通のこと?」 しまった。 言う予定もないことを伝えてしまった。 「そりゃそうだ、普通ってもんよ」 わはは、と言ってからまたおじさんは続ける。 「俺はもう、自分で死ぬのを諦めたからな。だから図々しく生きてんだ。すぐに死ねるボタンとかがあったらそりゃ押すけどな、はは」 おじさん、いい人だな。 唐突にそう思った。 「生きる意味なんて知らないけど。だけどあの時、な」 試すように、おじさんは僕の目を見た。 何だろう。 「覚えてるか、あの時」 「何」 「覚えてないか。お前あん時小さかったもんなー、やけに泣き喚く子だったよな」 あっ。 お母さんに言われていた言葉が、脳裏に蘇った。 「おじさん」 「おう、何だ」 辺りはもう、少しだけ明るくなってきていた。 星も見えない、寂しい夜だけれど。
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