First note 返り咲き

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広いロビーを抜けると、中央にインフォメーションセンターが見えてくる。その左右にそれぞれ階段が続き、左に行けば開発棟、右に行けば生産棟へと続く。 「お疲れ様です。」 寸分の狂いもなく、三人のインフォメーションスタッフが挨拶をする。こういうところにはAIを置かないのが岩井式だ。出迎えるものは、生身の人間で丁重に、という意味もあるが、会社の顔であるインフォメーションで、仮にAI絡みのトラブルが生じてしまえば、業種柄致命的だからである。  さて、ここからは開発エリアとなる。広々とした廊下はしばらく続く。途中CGのイルカが空を泳いだり、その先の壁面は、高さ20mの完全液晶で構築され、様々な風景を本物さながらに映し出してくれる。今そこに見えるのは、ナイアガラの滝を上から見た情景だ。骨伝導式のスピーカーを搭載し、臨場感のある滝の音を演出。本当にその場にいるかのような錯覚さえ覚える。働く者にとって、慣れやマンネリは、業務の質を落とす。そう考えた先代が、社員のためにと高額を叩いて新設した一大プロジェクトの設備だ。確かにこれなら、移す映像を変えることでリフレッシュにも繋がり、飽きにくい。
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