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「はっ!!」
春樹は勢い良くベッドから起き上がる。顔中汗まみれで息も上がっていた。音のない部屋は、静かすぎるが故に、耳鳴りさえも鬱陶しく感じられるほどだ。
と、息をつく間もなく、スマートフォンの着信音が部屋中に響き渡る。起床直前で静寂からのこの音は、脳をつんざくほどの騒音に思える。春樹は頭を抱えてしばし布団に顔を埋めていたが、すぐにローテーブルに置かれたそれに手を伸ばし、おもむろに耳に当てた。
「うん、かあさん…。」
田舎の母からだった。特に用事がなくとも、息子を思いやり、連絡をして来るような心温かき母親だ。
(ちゃんとご飯食べてる?)
「ああ、平気だから…。」
(もう二年になるのよ、母さんも思い
出させたくないけど、あれは事故
だったんだから、いつまでもあなた
が責任を感じる必要はないのよ?)
春樹の顔色が次第に怒りの表情へと変わっていく。
「分かってるって…。」
(あなたまで体調崩して倒れでも
したら、綾音さんだって…)
「分かってるって言ったろ!頼む
から、しばらくそっとしといて
くれよ!!」
母親が話し終わるより先に、春樹は逆上してそう言い放ち、歯切れの悪いまま彼は通話を強制的に終了させてしまった。
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