First note 返り咲き

9/16
前へ
/81ページ
次へ
「にっひっひー…♡。係長、捕まえた!」 ドアを開いた瞬間に、右腕を掴まれる春樹。そこには間違いなく、庶務課の事務員、沢井の姿があった。だが一体なぜ?思考を巡らせても分かるはずもなかったが、春樹の頭上をはてなマークが泳いだのも無理はない。だいたい、家の場所を教えたつもりも彼にはない。要するに、春樹を呼び出すためのお目付け役に彼女が抜粋されたといったところか。 「会社、大変みたいですよ?係長が  作った製品のおかげで。」 大変、と言う割に、やけに嬉しそうな顔をしてみせる沢井。彼女は、平穏な日常を覆すほどの大惨事やトラブルが大好物なのだ。 「もう昔の事だろ、何だって今更、  俺を呼び出す必要があるんだ…。」 庶務課の仕事をしている今の春樹に、企画課なんて花舞台、居場所もなければ、合わす顔もない。 「わたしも詳しくは聞いてないんです  けど、なんでも、あの製品自体、  商品化できなくなる可能性もある  みたいですよぉ?ニヒヒヒ…♡」 社の非常時に、異質にも楽しそうな顔をする。沢井とはそういう子だ。逆に春樹は、そんな彼女の顔色、表情を、アンテナ代わりにしていたと言っても嘘はない。そういうことには敏感なため、頼りにしてきた部分も正直多くあった。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加