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「…宮瀬です。よろしくお願いします」
webサイトの取材で、今日は朝から新宿の出版社に来ている。
この辺にはよく来るし、このビルの前も何度も通った事がある。
昨日遅くまでの打ち合わせの後、追い立てられる様にひたすらギターを弾いていた。
そのせいで正直寝不足だが、態度に出す訳にはいかない。
完全なる自業自得だ。
シンプルな白い外観に反して鮮やかなビタミンカラーの壁紙が目に痛い。
新曲のPRとデビュー時の事、好きなアーティストや最近ハマっているものなどを聞かれた。
担当の藤峰さんは手元のタブレットを見ながら淡々とインタビューを進めていった。
貼り付けた様なビジネススマイルの彼女とは、ほとんど目が合う事はなかった。
デビュー2年目のさほど売れていない歌手の取材だし、まぁそれも仕方のない事だろう。
やりたい事だけをやる訳にはいかない。仕事なのだから…。
そんな相手にも関わらず藤峰さんは下調べをたくさんしていてくれて、俺は終始リラックスして話す事ができた。
こんな楽しい取材は正直初めてだった。
曲を全部聴き込んでくれていたのも嬉しかった。
帰り際、藤峰さんが俺の曲をちゃんと分かってくれているのか何となく聞いてみたくなった。
藤峰さんが
「低空飛行‼︎」
って言った時、俺は一瞬言葉を失った。
"低空飛行"はデビューする前に歌っていた曲で、学校か路上かどっちかで聴いた人にしか知られていない。
藤峰さん、俺の事知ってたんじゃん…。
何でだろう…
何かすごく嬉しかった。
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