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寝室の端っこに小さく蹲り、火照る身体を抱きしめる 予定よりも早く始まった発情期に、いつもよりも多くの抑制剤を飲むも、普段から飲み続けているせいで一向に効果が現れない 熱く浅い呼吸を繰り返し、部屋中に充満しているはずのフェロモンの香りに怯える 早く彼に抱き着きたい 触れて欲しい 満たして欲しい 番にして欲しい Ωである本能が彼を求めてしまう いつも一緒に寝ているベッドを見ると、彼の匂いが欲しくて堪らず、シーツを手繰り寄せてしまう 「ダメ…元に、戻さなきゃ…ダメ…」 発情期(ヒート)が来たら、すぐに連絡するように言われているが、予定日も守れない、欠陥品の僕が忙しい彼の仕事の邪魔をしてしまう。と考え、彼に拒絶されたらと思うと怖くて連絡できなかった 少しでも落ち着こうと、キッチンに水を飲みに行く 時計を見やると、まだ14時を過ぎたところで、士郎さんが帰って来てくれるまでにはまだまだ時間が早い 「士郎さんに早く抱き締めてもらいたい…」 無意識に寝室の横にある衣装部屋に足が向かう 小さめの部屋だけど、クローゼットにはたくさんの服や上着、棚には帽子や鞄が綺麗に並べられている 部屋に入るだけで、大好きな彼の匂いに満たされる 彼の匂いに包まれたくて、クローゼットの扉を開く 色とりどりの綺麗な服に、本能が巣を作りたいと訴える 彼の服で綺麗な巣を作りたい 彼の匂いに包まれたい 彼に褒めてもらいたい Ωの本能である巣作りの衝動に駆られるも、過去のトラウマから怖くて何も出来ない ただ、どうしても今は彼を感じていたくて、極力皺が付かず、汚れなさそうな服を一着だけ選びベッドに持って行くことにした 「士郎さん、ごめ、なさい...汚しちゃ、ダメ...匂い、だけ...匂い、だけ...」 シーツを頭から被り、持ってきた服を抱き締めて顔を埋める 彼の匂いに身体が熱くなるも、ホッと安心する 「今日、我慢したら一緒に居てくれるはず。今だけ...まだ、帰って来ないで…でも、早く、早く抱きしめて…見つかる前に、ちゃんと戻さなきゃ」 熱で頭が働かず、満たされない身体を匂いだけで誤魔化す うわ言のように何度も「ごめんなさい」と呟き、噛み付いた痕が残る腕に爪を立てて発散されない性欲を堪えた いつの間にか日が暮れ、部屋の電気も付けていなかったせいで薄暗い 彼が帰ってくる前に借りた服を元通りクローゼットに戻しに行く 「この服で、巣を作ったら綺麗だろうなぁ...」 不意に願望を口にしてしまい、自嘲的な笑いが出る 「僕なんかが巣を作っても、誰にも褒めて貰えないのに… また怒られるし、壊す時のあの痛いのは、もうヤダな...」 今目の前にある綺麗な服から目を反らせるように瞳を閉じ、全てを諦めるようにクローゼットを閉じる もうすぐ、彼が帰って来てくれる きっと、優しく抱きしめてくれる ベッドのシーツくらいなら、被ってても怒られないよね… あと少し、もう少しの我慢…
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