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「えっ……」
αのフェロモンの匂いに弾かれたように顔を上げ、扉を見やる
扉の前にいる士郎さんと目が合ってしまい、自分が持っている服に気付いて血の気が引いたように一気に青褪める
「ぁ…えっと、これっ…ちがっ、作ってないからっ!
か、片付けてただけ、で…ちがっ…ごめっ、ごめん、なさいっ…」
慌てて服をハンガーに掛け直そうとするも、手が震えて上手くできない
彼が近付いて来る気配に更にパニックになり、ガタガタ震えながらしゃがみ込んで頭を腕で隠し
「ごめっ、なさい…も、しないから…もう、入らないから…嫌いに、ならないで…殴らないで…捨て、ないで…」
ボロボロと涙が溢れ出し、呼吸が上手に出来ない
嫌われたくない
捨てられたくない
包み込むように抱き締められ、ビクンッと身体が強張ってしまう
「どうして?俺の為に巣を作ってくれるんでしょ?
雪兎のこと、大好きだし、絶対に離さないから安心していいよ
それに、俺が雪兎を殴るなんてあり得ないから。大丈夫、安心していいよ」
背中を優しく撫でながら士郎さんの膝に座るように抱き抱えられ、先程落としてしまったワイシャツを渡される
おずおずワイシャツを受け取って抱き締めていると、何度も何度も、耳元で「愛してる」と言ってくれた
「雪兎、巣作りでも怖いことがあったんだね…ごめんね、気付いてあげれなくて…
今までいっぱい我慢させてしまってたんだな…」
士郎さんのせいじゃないのに、眉が下がって悲しそうな顔をして僕のことを見てくれる
「士郎さんのせいじゃない…あの、昔初めて作った時、汚いって、臭いって言われて、入って貰えなくて…入れさせて、貰えなくて…でも、かた…片付けろって、言われて…ひっく、痛かった…自分で、壊すの…痛かった…」
当時の哀しみが溢れ出し、ワイシャツをギュッと握り締めながら士郎さんの胸で泣きじゃくってしまう
「うん、雪兎は今までそれも我慢してきたのか…大丈夫、俺はそいつとは違うから。雪兎の巣は、作りたい時に作っていいから。いつか、俺もその巣に入れさせて欲しい」
士郎さんの優しい声と温かさに涙が止まらない
ずっと苦しかった
ずっと、言いたかった
ずっと、諦めてた
でも
作っても、いいの?
ずっと好きでいてくれる?
一緒に居てくれる?
愛して、もらえる?
我儘、言っていいのかな?
番に、してもらえるのかな?
「士郎さん、僕の頸を噛んでくれますか?
欠陥品の僕のこと、番にしてくれますか…?」
彼の胸に顔を埋め、消え入りそうな声で哀願する
断られたらどうしよう…
そんなつもりじゃなかったって言われたら…
やっぱり、今までが気のせいだったって言われたら…
なかなか返事を貰えない
沈黙が怖い…
やっぱり、ダメなのかな…
僕なんかが士郎さんの番には相応しくないから…
「あっ…ごめ、なさい…気にしないで…。やっぱり、嫌だよね…」
涙で彼の顔がよく見えない
無理矢理笑顔を作ってみせるも、上手く笑えない
怒ってるのかな…
やっぱり、言わなきゃよかった…
また、出て行かなきゃ…
ずっと、ここに…居たかった、のに……
彼の胸を押して離れようとした瞬間、先程よりも強い力で抱き締められる
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