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雪兎に出会ってから3度目の春、リハビリの効果もあり、心も体も回復してきた頃、退院の相談を医師から受けた 俺自身はそのまま雪兎と一緒に暮らしたいと考えているが、家族や元番の事もあり、勝手に引き取っていいものかと悩んでいると、入院に関しての契約と雪兎の身辺についての書類を見せられた 雪兎は元番にDVを受けていたらしく、そのαももう別のΩと番になっているので引き取るつもりは一切ないらしい また、ここに入院する際、家族との縁も切られていることから、退院しても路頭に迷うしかない 俺が雪兎を引取らない場合、残る選択はここに残って他の引取り手が現れるのを待つらしい どんな引取り手で、何をされるかもわからない相手だろうと、Ωに拒否権は存在しない その時になって、ここが世間でなんと言われているのかを思い出した 『捨てられたΩの死処』 治る見込みも、治すことも、治ったところで行く場所すらない 本当の意味で、死ぬ為だけに入れられる施設だと… 「雪兎、俺と一緒に暮らさないか? 今はまだツラいかもしれないが、俺は雪兎を愛している。いつか、番になって欲しいって思っている だから、今は俺と一緒に生きて欲しい」 雪兎の細い手を握り、真剣な眼差しで話した 不安げな顔で俺の話しを聞いている雪兎だったが、しばらく目を臥せて悩んだ後、小さく頷き 「よろしく、お願いします」 雪兎の優しい微笑みに、緊張していた身体がホッと息を吐く 一緒に暮らせるようになるまで時間はかかったが、今では笑顔も見せてくれるし、触れ合うことも出来る キスを怖がっていたが、それも徐々に慣れていき、今では雪兎自身からしてくれるまでに回復した ただ、まだ番になることを怯えているのを見て、寂しさが募る 運命の番でなかったとしても、番になった相手にどれだけ酷いコトをしていたのかと、元番に殺したい程怒りを覚える だが、今、自分の腕の中で安心しきっているΩを見るとその気持ちも失せ、ただただ愛しさだけが募っていった
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