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実はレオナルドとグレンがこの話をするのは、今夜が初めてのことではない。レオナルドは今までにも何度か、グレンに対して同じことを尋ねてるのだ。
しかしいつだって返される言葉は同じ。何もない、知らない、とそれだけだ。
アンとグレンの相性のよさには目を見張るものがあった。一見すれば不仲とも思われる場面もあったが、それは互いに本音を言える仲だったからだ。
レオナルドは、アンとグレンがぎゃあぎゃあと言い合うところを見るのが好きだった。
けれどもシャルロット・ハートの素性調査を終えたその日から、アンとグレンの間には見えない壁ができてしまったかのようだ。
その壁が永久に壊れることのない壁だというのなら、それはそれで仕方のないことだとは思う。
しかし――
「グレン、本当にこのままでいいのか?」
含みのある質問に、グレンはことさら不機嫌になった。
「……何がだよ」
「アン様のことだ。この邸宅の者はみなアン様のことを好いている。アン様がアーサー殿下の妻になることに不満を抱く者はいない。だがお前は、本当にこの先にある未来を受け入れられるのか?」
「俺が受け入れる、受け入れないは問題じゃねぇだろ。今お前が言ったことが全てだ。アンとアーサーの結婚に不満を抱く者はいない。アン自身もこの結婚を受け入れている。考えうる限り最善の未来じゃないか」
「しかしだな、グレン」
だん、と大きな音がレオナルドの声をさえぎった。グレンがダイニングテーブルを叩いた音だ。
「直前になって口やかましい奴だな! 俺がそれでいいと言っているんだから、ぐだぐだ説教を垂れるんじゃねぇよ!」
グレンは満杯のワインを一息で飲み干し、席を立った。
「1杯は付き合ったし、俺はもう寝るぞ。じゃあな」
ドタドタとやかましい足音を立てて、グレンはダイニングルームから出て行った。
残されたレオナルドは2杯目となるワインに口をつけ、グレンの言葉を思い返した。
「……最善の未来、か」
確かにアンをアーサーの妻として迎えることは、思いつく限りでは最善の未来だ。
1人暮らしを経験しているアンは家事をすることに抵抗がないだろうし、専属の侍女がつかないことに文句も言わない。豪勢ではない食事も、庶民同様の衣服も、文句一つ言わずに受け入れるだろう。
レオナルドと一緒に作物の種をまき、バーバラと一緒に邸宅の掃除に精を出し、リナと一緒にアーサーの生活介助を行う。そんな退屈な日々に、アンはきっとささやかな幸せを感じてくれるはずだ。
穏やかな日々は未来永劫、続いていく。
主の命が尽きるまで。
ひっそりと静まり返ったダイニングルームで、レオナルドは2杯目となる祝い酒を空けた。
「だがなグレン。私には皆が密かに願う、『最高の未来』があるように思えてならないんだ」
***
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