プロローグ ーハナの秘密ー

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プロローグ ーハナの秘密ー

 ハナと出逢ったのは大学のサークルだった。  春先に一年生がたくさん入ってくる。ハナはその内の目立たない一人でしかなかった。  近くのカフェで新しい飲み物が発売されたらしく、サークルの女の子達が買ってきて飲んでいた。 「あ、シン先輩!」 「やあ、何集まってるの?」 「新作のラテが色々出たからみんなで味見してます」 「シン先輩飲んでみてください。美味しいんです! ハナ、先輩に渡して味見してもらいなよ!」 「あ、はいどうぞ」 とラテを渡して来たのがハナだった。  じゃあ、と受け取りストローに口をつける。甘い。そしてほんのり痺れるような感覚。 「甘くて不思議な味だね。変わったスパイスでも入ってるの?」 「え⁈」  全員が変な顔をする。 「そんな味しましたっけ⁈」 「シン先輩、サークルで一番の料理人だから、私達がわからない味がわかるのかも?」  みんながハテナマークを飛ばした様子を見ながら、ハナに容器を返す。 「ありがとう、美味しかったよ」  全くさっきとは違い、ハナがくっきり存在感を持って僕の前にいた。  肩先で跳ねた髪、短く切った前髪に切れ長の目。細い線で引かれた顎のライン。  子猫みたいな顔をしているのに、背が小さいわけじゃない。  ごく普通の容姿。  だけど、目が離せない。 「シン先輩と初めて話しました」 「そうだっけ」 「はい、四年生の先輩はあまりサークルに来られませんから」  ハナは初めての人と話す緊張感を残しながら笑顔でそう言った。  サークルに顔を出す度に、ハナを探してしまう。別にハナは好みの顔という訳じゃないし、何か特別な出来事があった訳じゃない。  なのに何故探してしまうんだろう。 「ハナちゃん、今度の連休空いてる?」 「え? はい、土曜日なら……」 「じゃ、ドライブ行こう。こないだのラテのお礼」 「や、あ、あんな一口でそんな」 「まあいいから。じゃあ土曜日十時に東門前ね」 「えーっ⁈ 先輩!!」  僕は返事を聞かずに立ち去った。  自分でも、何故あんな風に誘ったのかわからない。その時僕は、もう二年ほど友達以上恋人未満の、微妙な関係の子がいたのに。 「シン先輩、今日はよろしくお願いします」  ペコリと頭を下げてハナが改まった挨拶をする。 「来てくれてありがとう。乗って」  車を海に向けて走らせる。 「ほんと、お礼なんてしてもらうような事じゃないのに…」  ハナはものすごく恐縮している。 「……気になったから」 「え?」 「君の事が気になったから」 「は?? シン先輩、変ですよ⁇ 私こんな感じだし……」  およそデート、とは思えないラフな服。いつものハナはそんな感じで、今日も変わらない。  異性として見られてないんだな、と一瞬考えたが、急にお礼として誘われたのに、いきなり気合い入れてくる子もおかしいよな。 「その服装なら……釣りに付き合えるよね?」 「釣りですか? 楽しそうですね!」
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