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部屋のベルが鳴る。
ビクッとして飛び起きた。今私は何処にいるんだっけ? 今何時?
把握するのに時間がかかる。またベルが鳴る。
あ……テルヤ!!
慌てて私はドアに向かった。ドアを開けると間違いなくテルヤだった。
「テルヤ……お疲れ様……」
「遅くなってごめん。寝てた?」
そういう彼はビジネススーツを着て、サラリーマンの出張みたいな出で立ちだった。目立たないようにしてきたつもりだろうけど、その眼鏡はセクシーすぎて逆効果じゃないかな。
昔みたいなカジュアルな姿を想像していた私はちょっとドキッとした。
「うん、待ちくたびれちゃって……」
ああ、でもまだ頭がぼんやりする。飲み過ぎたかな。
「……会えて嬉しい」
後ろから抱きしめられた。三年振りのテルヤの腕。彼の香りがする。気持ちがあの頃に引き戻される。嬉しいけど、浮かれたらだめだ。
「忙しいのに呼んでくれてありがとう」
ときちんとお礼を伝える。
「……ねえ」
ダメ。耳元でそういう声出さないで。ちゃんと話がしたくて来たのに。私はあくまでも元彼、として接しよう。
「ね、テルヤ、何か飲む?」
「……じゃあ、それもらおうかな」
テルヤが私が開けたシャンパンの瓶に気づいて、私から腕をほどき、ソファーに向かっていった。シャンパンをフルートグラスに注いで渡す。
「ちょっと気が抜けてるかもだけど」
「ハナ……元気に、してた?」
テルヤはあの人懐っこい微笑みで、小首を傾げながら微笑んだ。素敵過ぎて心臓が跳ねた。その微笑みはファンの子なら悲鳴を上げて倒れるくらい完璧で洗練されている。
私は敢えて隣には座らずに向かい側に回って座った。ちゃんといままでとこれからの話がしたいから。冷静にならなくちゃ。
「うん。テルヤは? あ、いつも見てる。こないだの歌番組も見たよ」
「ありがとう。元気だったよ。……ハナ、何か食べよう。俺もう腹減って死にそう」
もうそんな時間なの? テルヤが席を立ってメニューを探しにカウンターを見にいく。
「確かに私もお腹すいた! え、今何時?」
「夜の八時」
「それは……お腹も空くね」
ルームサービスのメニューを取ってきた彼が隣に座ってきた。ああ不覚。
だけど昔こんなだったよね。隣にいるのが当たり前で。
「どれにしよっか?」
「うーん悩むなぁ……」
美味しそうなメニューに目移りする。お値段も何だかすごいけど、頼んでしまおう。話はご飯を食べてからにすればいい。
一緒にメニューを見るから、いつの間にかテルヤと脚が触れるほど近くにいた。
「……ハナ……」
「ん?」
呼ばれて顔を上げた。
「あ……」
しまった。いつもこうやって不意打ちされてきたのに。
私の顎を摘む熱い指先と、冷たい唇。三年前と同じように、いいかとも好きだとも何も言わないで、テルヤは私に深いキスをした。
キスをした後にテルヤの顔を見ると、やっぱりあの頃と同じで、目が何かに酔ったようになっている。
それ以外考えられなくなるみたいになるのは変わらないの?
二度目の長いキスの後に、抱きかかえてベッドまで連れていかれた。
「……テルヤ、ね、待っ、」
落ち着いてほしいのに、また口を塞がれる。あの頃みたいに水に溺れるような感覚が襲ってくる。もう抵抗する力も入らない。
手首を掴まれて仰向けに組み敷かれた。
「俺、あれから誰ともしてないんだ。ハナは?」
嘘でしょ? アイドルなら可愛いファンの子も同じ仕事の人もたくさんいるよね? あんなに遊んでたのに? と思う自分と、同じ気持ちでいたと知って嬉しい自分もいて複雑な気持ちになる。
ゆっくり横に首を振る。
「誰とも?」
「……して、ない」
こんな事言わせるなんて。顔に血が集まって恥ずかしくてたまらない。なのにテルヤは満足そうに微笑むと、私のヒールを脱がせて放り投げた。
「ご飯よりハナが先。お腹空いたよ」
全然変わらない。三年前と。
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