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どうやったら俺のものに
何年も私に触れていないはずなのに、どうしてテルヤは私の体がどうだったかを覚えているんだろう。
何年も女の子抱いてないって嘘だよね、きっと。
そんな風によぎる雑念はあっという間に断ち切られて、何も考えられなくなる。
ハナは全然変わらなくて、それどころかもっと良くて。なのに俺はがっついてきっと彼女を前よりも乱暴に扱ったと思う。
それなのにあの頃よりももっと優しい表情でハナは俺の背中に腕を回す。
彼女の好きなやり方。体温が上がるのがわかる。
あの頃ハナが俺に言ったことがある。
「不思議なんだけど、何されてもイヤじゃないの……テルヤ、何で私のことわかるの?」
やってみたい事があった。多分ハナはこれが好きなはずだ。
「ダメっ!…………!」
逃げても無駄だよ。俺は彼女の腰を掴んで引き戻した。
体を震わせ気を失いかけているハナを見て思う。 別れるとかありえない。他の女なんか要らない。ましてやハナが他の男のものになるとか気が狂いそうだ。
どうやったら俺のものになる?
どうしたら俺のいないハナの日常の中で独り占めできるんだろう。ある考えが頭をよぎった。
それを実行するために、俺はハナと自分を隔てた薄い膜を取り去った。
またハナの中に入った時、彼女が出した声までトロトロに蕩けたハチミツみたいだった。絶対に他の男には聞かせられない。
「ちくしょう、何でこんなに……」
何でこんなに好きで、お前に執着してしまうんだろう。
涙が溢れてきて、自分が落とした涙の粒が彼女の胸元に落ちて染み込んでいく。
俺、お前のためならアイドル辞めていいや。
だから、こうするよ。お前を独り占めしたい。
俺はハナに全てを放った。
空腹感で目が覚めた。
横に眠っているハナを見つめる。ツヤのある栗色の髪が無造作に白いシーツに広がっていて、そっと髪をまとめて寄せた。細い肩が露わになる。寝顔は変わらないな。かわいい俺の彼女。
「ハナ……」
何も話さないうちに抱いてしまって、肝心の話が出来ていない。俺は遅くとも五時間後にはここを出る必要がある。
次会えるのはいつなのか。そう考えるだけで胸が詰まった。
あと二年。早ければ一年で今の仕事を辞めよう。
働いてみてわかったが、俺はダンスがしたいだけでアイドルがしたかった訳じゃない。コレオグラフに興味があって、今個人的に勉強している。簡単じゃないだろうけど、ハナがそばにいるならやっていけると思う。
それに、ダンスだけを仕事にできなくても、生きていきようはある。でも、ハナがいない人生は考えられない。
アイドルは使い捨てだ。長く活躍しているグループもあるが、現状二番手辺りでは次の契約更新はないかもしれない。事務所だってどうなるかわからない。
周りの事情に振り回される生き方は幸せなのか? ずっと考えていた。辞められないと思っていたのは思い込みだ。
もう今まで努力した分よりもたくさんの収入を得た。
ハナと離ればなれの三年間と引き換えに。
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