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テルヤが顔にそっと触れているのに気づいて目が覚めた。
「おはよ」
可愛い小さなえくぼを見せて彼が微笑む。
体が重怠い。あれからどのぐらい抱かれたのかさえ記憶にない。ゆっくりと起き上がって、シャワーを浴びに行った。
鏡を見ると、テルヤがつけた跡が胸元に散らばっている。あんなに我を忘れるほど気持ちよくなってしまった事実に、アキトシへの罪悪感が湧いてくる。
全然話ができていない。
私何しに来たんだろう。
海外まで来て、元彼と気を失うほどヤって朝だなんて、バカみたい。
いつだってテルヤといる時は彼のペースに巻き込まれて、自分のリズムを失ってしまう。そういうのも面白かったけど、今はもう状況が変わりすぎてる。
彼はアイドルを仕事にした。一般人の私と付き合うべきじゃない。そして私は、穏やかに自分の人生を生きていきたい。テルヤの事が嫌いになったわけじゃないけど、待つのはもう辛すぎるし、未来の見えない関係を続けるには、私はもう年齢を重ねてしまったと思う。
シャワーから出ると、テルヤが朝食を頼んだようで、テーブルに食事が並んでいた。
「朝からステーキ⁈」
「だって昨日の夕食食べてないし。ハナにはたくさんフルーツとか頼んだよ? ほら」
私がフルーツが好きなこと、覚えてくれてたんだ。
「ハナ、あのさ」
「なあに?」
「俺別れるつもりないから」
どうして、そんなことを言うの? ずっとこんな風にどこかに私を呼び出して抱くの?
「俺と別れるつもりで会いに来ただろ?」
「……うん」
「俺以外の男に抱かれて満足できるの?」
昨日のことが思い出されて、顔が赤くなるのがわかった。何てこと言うのだろう。いつもこの人は私が驚くようなことを言ったりしたりする。
「……それは、」
「無理だね。少なくともあいつには無理」
「それ……めちゃくちゃ失礼だし、わかんないよそんなの」
あいつってアキトシのこと? キスは、とても上手だったよ。嫌じゃなかったよ? テルヤに最初にされた時みたいに怖くなかったし。
でもそんなことは言えない。
テルヤはステーキを切ると、食べてみて、と一切れ差し出した。大きい一口だったけど何とか口に入れる。
「っていうかさ、結婚しよ」
んん⁈ 変な声が出た。何言ってんの?
「アイドル、長くても二年のうちに辞めるから。それに赤ちゃん出来てるかもだし」
「んーーっ!!⁉︎」
情報量が多すぎてついて行けない。結婚? 辞める? 赤ちゃんって何?! 必死にお肉を飲み込んだ。
「待って、どういうこと⁉︎」
「だから結婚しよって」
「違う、赤ちゃんって……」
「出しちゃった、中に」
「うそ……いつ……?」
避妊はしていたはずなのに、そんなことをした彼の様子もわからないくらい私は快楽に溺れていた。
「責任取るつもりでやったよ」
「そういう問題じゃないでしょ!! 私はいいって言ってない! バカじゃないの⁉︎」
あり得ない。本当にあり得ない。やっぱりクズなのテルヤって?
ミスキャンパス振った時のあれが正体なの? 三年も待ってた男がこれ?!
私はショックで泣きそうだった。
アフターピルを飲まなくちゃ。でもここは外国。入手の仕方なんてわからない。48時間以内? 72時間以内だっけ? 少しでも早く帰って、手に入れて飲まなければ。
転職したばかりの私が、今妊娠しても産めない。
「本気だよ」
テルヤが静かに呟く。
「本気だよ。アイドル辞めるのもお前と結婚したいのも」
「……テルヤはいつもいつも、順番が滅茶苦茶だよ……バカ……」
「ごめん……ハナを誰にも渡したくない」
あなたは、私の事なんか、ちっとも考えてない。そんな幼稚な考えで、やっとなれたアイドルを辞めるとか言ってみたり、私を妊娠させようとするなんて。
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