彼女は媚薬

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 何が、彼を突然そうさせたのかわからない。  わかるのは、アキトシも私とキスした後にテルヤと同じあの目になったこと。最初のキスの時はそうならなかったのに。  男の人って、体が欲しいだけなんだろうか。だけど、私をちゃんと好きなのは伝わってくる。  抵抗しようとしたけれど、そんな気力も体力も無くて。逆に私の首や胸元に残っている赤い跡を見て、アキトシが私を嫌いになってくれればいいと思った。  それなのに。  がっしりした彼の腕は私を優しく包んで、鼓膜をそっと揺らす低い声でこう言った。 「ハナ、僕を一番にして。ちゃんとつきあおう?」  どうして? 私、散々テルヤに抱かれてきたのに。  涙が止まらなくなる。  アキトシが私の涙を拭った指を舐めた。ハッとした顔をした彼は、すぐに微笑んで私の顏につたう涙をそっと吸い取り始めた。  アキトシはテルヤとは性格も体つきも香りも抱き方も違う。なのに私は、アキトシに抱かれたことがあるみたいに声を上げてしまった。  私、どうなってるんだろう。  おかしいのは私なのかもしれない。  僕の仮説が正しければ、ハナの涙も媚薬のように酔うはずだ。そう思って彼女の涙を親指で拭って舐めた。  ……やっぱり。予想通りに頭が痺れてくる。こうなったら、もう酔っぱらってしまおう。きっと彼女の体中の液体は全部媚薬なんだろうから。君は自分が男にとって、どれだけ危険で魅力的なのか知らないんだね。  僕は、ハナに微笑んだ。頬に、首に、流れる涙を吸い取る。誰に抱かれても、最後に僕のところに来ればいい。ちゃんとこうやって上書きしてあげる。  初めて抱くとは思えないくらいにハナの体はしっくりきて、自分だけが彼女を満足させることができるんだと思ってしまう。  これもきっと媚薬の魔法なんだろうなと思いながら、僕は彼女に溺れた。
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