彼女は媚薬

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 生まれて初めて、違う男の人に立て続けに抱かれた。シンさんと一緒にいた頃にはありえなかったこと。  私ってそんな人だったっけ。自分の行動に呆れている。  今の自分をシンさんが見たら、何て言うだろう。きっと怒られて嫌われる。 部屋にある、写真のシンさんと目が合う。  シンさん、何か言ってよ。少ししぼんできたアルパカぬいぐるみを抱きしめた。  シンさんと出逢ったのは、大学一年の時。サークルの先輩だった。その時はもうシンさんは四年生で、サークルに来るのは夏までだった。素敵なお兄さんとしか見れなくて、つきあうなんて考えてもみなかったっけ。  シンさんから梅雨に入る前に一緒に釣りに行こうって言われて、ついて行ったのが始まり。お喋りしない時間もたくさんあったけど、 「一日一緒にいて、嫌じゃなかったのは君が初めてだ」 って言われてつきあい始めた。  初めてのキスも、美味しい魚介スープの作り方も何もかも、全部シンさんが教えてくれた。  私は大学二年生になって、シンさんは社会人になった。その時に言われたんだった。 「ハナ、婚約して一緒に住もう。君が大学を卒業したら結婚する。社会人になったら言おうと思ってたんだ」  親はまだ早いと怒るかと思ったんだけど、娘さんを幸せにします、とスーツ姿で頭を下げたシンさんに、親は喜んでいた。離れた土地に進学させている娘が一人暮らしよりも、婚約者と暮らした方が安心だ、と思ったみたい。  シンさんのご両親は、何度もシンさんに本気なのか、よその娘さんなんだからちゃんと将来をよくよく考えて大切にするように、と言ってくれた。  友達もシン先輩なら間違いないよ、面白いのにしっかりしてる人だもの、と皆で祝ってくれたっけ。今思えば、私は婚約の重みがいまいちわかってなかったけれど、シンさんが大好きだったから、一緒に住めるなんて幸せを感じる以外の何ものでもなかった。  シンさんとのその時がどうだったかを思い出してみる。  あの二人みたいに、目つきが変わるようなことって無かったと思うけどな……。  ただ、初めてキスした時から、誰と遊びに行くのかをすごく気にするようにはなったけど。友達でも男と二人はダメだよって。でもそれって、つきあってたら当たり前のことだろうし……。  お風呂に入りながら、鏡に映った形がついている肩を見てドキッとした。今日アキトシが私につけた跡。 「痛い事はしたくないけど、跡付けられ過ぎだから、これはお仕置き」  厚みのある唇で肩先を包まれたかと思うと、ガリッと音がして痛みが走った。痛いのに、気持ちよくて、全身に鳥肌が立って変になってしまいそうだった。  ……やっぱり私おかしくなってる。テルヤの時も意識飛んじゃったし。それまで何年も誰とも何もしてないのに。  前の私に戻りたい。私は本当に、どうしちゃったんだろう。  お風呂から出ると、スマホに通知が来ていた。 「武道館でツアー最後のライブをするから、チケットを送る。必ず来て」  テルヤからだった。
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