最後のキス

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 アキトシがつけた肩の歯形はすぐにバレて、私はめちゃくちゃにされた。もうほとんど消えかけていたのに、すぐにテルヤは気が付いた。 「ハナ……あいつと寝たのか? なあ、やったのかって聞いてんだよ!」  強く押さえつけられた腕や脚が痛い。なのに、彼は私の上で泣いている。 「どうしてわかんないんだよ……!」  そう。テルヤのことも、自分のこともわからない。ただ、好きな人と穏やかに暮らしたい。昔から望むのはそれだけだったはずなのに。  体が感じる快感とは裏腹に、天井の蛍光灯の灯りが滲んで見えた。  三年間誰とも寝てない、と彼女は言った。  なのに俺と寝た後に、どうしてすぐに他の男と寝ることができるんだ。ついこないだ、気を失うほど抱いたのに。  どうしてお前はいつも、他の男を心に住まわせてるんだ。  三年前も、今も。  なあ、俺じゃ足りない? こんなに好きなのに。  俺はハナを文字通り犯した。とても丁寧に抱いてあげることなんてできなかった。彼女は抵抗せず、罰を甘んじて受けるように、俺を受け入れた。  俺は泣きながらハナを抱いた。  もうダメなんだな。  俺は捨てられる。  何万人ものファンに愛され、十分すぎる以上の金を持ち、ジェット機で飛ぶ生活。なのに、俺は、たった一人の女を手に入れることができない。 「もし、妊娠してたら、産むかも」 「……それ、俺の子かどうかわかんないじゃん」  とても冷たい声と視線。当たり前だ。私は彼を裏切ってアキトシと寝たんだから。間違いなくこの子はテルヤの子だよ。でもそれは言わないし言う必要もないね。もう会わないから。 「だから、もしそうだったとしても、産むなら私一人で産むから。迷惑は掛けないよ」 「どうせ、あいつと一緒になるんだろ……」  私は答えなかった。  最後に見たテルヤは、完全に表情を失くしていた。大好きだった人をこんな風に傷つけて終わるなんて。  それでも私は、今は自分の暮らしを選ぶよ。ごめんね。一ファンとしては好きでいさせてね。  最後に見たハナは、やっぱり俺が好きな人で、でももう俺のものじゃない人になっていた。  俺のものじゃないハナ。誰かのものになってしまうお前。  これからの人生を俺はお前無しでどう生きたらいいんだろう。 「……さよなら」  ドアを開いて出ようとするハナの手首を掴んで引き留めた。 「もし……」  ハナが俺の目を見る。もう二度と見ることは無い、俺が好きな人の瞳。 「もし、子どもができたなら……俺の子なら必ず連絡して。必ず……」  夏の熱い風がドアの隙間から入り込んでくる。  ハナのつけている香りが高い気温に反応して、揮発しながら広がる。  深く息を吸い込んで、ハナに口づけた。  初めてキスした時と変わらず、彼女の唇はやっぱり甘くて、頭の芯まで痺れた。
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