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僕の宝物
予定がはっきりしたら連絡するね、とハナからメッセージをもらったまま、二週間以上が過ぎた。バーにも現れない。
これが彼女の答えなのか、と思うと空しくもあったが、彼女をもう抱いているのに連絡を取れない臆病な自分にも嫌気がさした。
「ハナさん最近来られませんね」
「……そうだな」
チヒロがふとそんなことを言う。
「何か聞いてないか? メッセージ交換したんだろ?」
うっかりこんなことを口にしてしまった。
「ハナさん、彼氏いるんですよね?」
それは僕なのか、それともテルヤさんのことなのか。
「……みたいだな。詳しくは知らないけど」
「私、一人で彼女を悩ませるような人って最悪だと思います。今のところ私の中ではハナさんの彼氏は最低ですね」
一体ハナに何が起きてるんだ?!
「ちょっと、ストック確認してくる」
店のバックヤードに急ぎ、ハナに連絡した。
”明日休みだよね?仕事終わったら行くから、朝早いけど鍵開けて”
堂々としていてよかったんだ。最後は僕のところに帰ってくる人なのに。
明日会ったら、ハナに確認しよう。僕が君の彼氏でいいんだよね、と。
アキトシにも連絡ができないままずいぶん時間が過ぎてしまった。どこから話したらいいかわからなくて。
明日病院に受診する。もし、エコーで心音が確認されたら、これからのこと、本気で考えなくちゃ。
食器を片付けていたらスマホが鳴った。アキトシからだ。仕事が終わったらうちに来るの? どうしよう。
考えているとチヒロからもメッセージが来た。
”最終的にどうするにせよ、彼氏さんとちゃんと話した方がいいと思います”
テルヤとは話した。そして連絡も来なくなったし、これから会う事も無くなった。そうだよね、どちらにしても、アキトシともお別れしないといけないんだ。
こんな不誠実な人間とつきあってもらうなんて申し訳ないもの。ちゃんと話さないといけないよね。
”そうしてみます。ありがとう”
チヒロさんに返信した。
アキトシには、”うん、明日休み。遠慮なくインターホン押してね”と返した。
まだ朝の五時過ぎだというのに日差しがどんどん暑くなってくる。コンビニで水と冷たいカフェオレを二つ買い、駐車場から車を出した。今日は不穏な客の対応で疲れた。ハナの部屋で寝かせてもらおう。
話すのはそれからでいい。
ハナの部屋のインターホンを鳴らす。
「はーい」
「僕です」
すぐに鍵が開いた。部屋着姿のハナがいた。
「アキトシ、お疲れ様」
「起きてた?」
「目覚ましかけといた」
「ごめん……」
「気にしないで。暑かったでしょ、入って」
1Kの彼女の部屋は、シンプルに片付けられている。無駄なものが無い。
カフェオレを渡した。
「これ好きなの。ありがとう」
彼女の香りがする部屋にいると、睡魔が襲ってくる。
「アキトシ、横になる?」
「うん。ハナももう一回、寝よう……」
僕は彼女のベッドに横になると、すぐに熟睡してしまった。
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