僕の宝物

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 ブランチの後にハナが病院にいた理由を聞いて、僕は言葉が出なかった。それは、レイプ紛いのことをされて妊娠したってことじゃないか。  その後、僕は何も知らずに彼女を抱いていた。 「ごめんね。ちゃんとした彼女になれなくて。だからもう……」 「あのさ……」  否定されると思うけど訊いてみる。 「それって、僕の子の可能性はないの?」 「ううん。もうアフターピル飲んでたから……」  ハナはゆっくりと首を横に振った。 「でも、可能性が0じゃないんだろ?」  もしも、0.001%でも僕の子供の可能性があるなら。 「僕の子の可能性がほんの少しでもあるんだったら、一人で産ませないよ」 「ありがとう。気持ちだけもらっとくね」  ハナはどうも出産の大変さがわかってないみたいだ。腹が立ってきた。 「……ねえ、何でそんなに頑固なんだ? 一人で産むとか無理だから」  ハナが目を丸くしている。僕だって怒る時もあるんだよ。 「僕の母親は妹を産んだ後にそのまま入院したよ。出血多量で死ぬところだったんだ。もし君がそんな目に遭ったら、生まれたばかりの子供はどうするんだ? 誰が世話するんだよ!」  僕はハナが途中で言葉を挟むことができないくらいに続けて話した。母親の命が危ないと聞かされた、五歳の時を思い出す。とても落ち着いて話をすることなどできない。 「君が産むつもりなら結婚する。子供には家族が必要だ。っていうか、僕の子供の可能性が1%でもあるなら、父親の意見聞かずにそういうの決めてもらったら困るんだけど?」  ハナに大きな声を出したのはこれが初めてだ。 「……だから、可能性は無いって言ってるじゃない!」  ハナの大きな声を聞くのも初めてだった。僕らは出逢って初めて、喧嘩らしい喧嘩をしている。 「そのことをちゃんと医者に聞いたのか?」 「聞いてない、そんなのいちいち言うわけないじゃない」 「ほーら、じゃあ分かんないじゃないか」  なんだか笑えてきた。 「だって! テルヤは……」 「うるさい! 今その名前出すなよ」  僕はハナを捕まえて唇を塞いだ。  アキトシがこんなに怒る人だなんて思わなかった。だけど嫌じゃないのはなぜだろう。それでも、アキトシとの子供じゃないから、どうにかして私が育てないと。 「次の受診は? ついてくから」  え? チヒロさんいるしそれはちょっとアキトシ的にも困るんじゃないの? そもそもどうしてそこまで。 「あのね、チヒロさんが……そこで看護師してるんだけど」 「は?! じゃあ今のハナの状態を知ってるのか?」 「うん、身体の状態はね。仕事掛け持ちしてるって」  すごく困った顔してる。 「わかった。じゃあこっちが先だな。ハナ、出かけよう」 「え? どっち? 何のこと?」 「いいから」  三十分ほど車に乗って連れて行かれた先は区役所だった。 「婚姻届ください」  ニコニコした窓口のおじさんからあっさりと届出用紙をもらってきた。 「え、アキトシ⁈」 「結婚した時と子供が生まれる時の誤差は少ない方がいいだろ。書こう」 「ちょっと待ってそんな簡単に」  アキトシが大きく溜息をついて、イライラした様子でペンを回しながら言った。 「君も大人なんだろ? 子供に責任取ろうよ」  アキトシってこういう人だったっけ。いつも冷静な彼がこんなこと言うなんて自棄になってる。止めなくちゃ。
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