僕の宝物

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 どんどん大きくなるお腹をさすりながら、アキトシが強引に結婚しようと言ってくれたことに感謝している。体力に不安がある訳じゃないけど、出産について知れば知るほど一人では無茶だったと思う。私の実家は遠くて、親の助けも得られない状態だから。  アキトシとの暮らしはとても穏やかで幸せだ。私が思い描いていた暮らし。 お酒が飲めなくなった私に、ノンアルコールのカクテルを作ってくれる優しい夫。  時々、テレビにテルヤのいるグループが出るのを見ることがある。  バーで初めて会った時よりも完璧な笑顔、洗練された身のこなし、ダンスしている時のセクシーな動きと表情。  やっぱりあなたはスポットライトを浴びる舞台の上が似合う。  私の選択は間違ってなかった。何故なら、彼のグループは、この一年ですごくブレイクして、彼の姿をネットでもテレビでも見ない日が無いから。  職場にもあなたのファンがたくさんいるんだよ。身近でもう三人は見つけたんだから。小さな部署でだよ? すごい人数だと思わない? その人たちは、あなたに夢中で、あなたの良い所を信じられないぐらい細かく知ってる。私が知ってるテルヤなんて、ほんのちょっとしか無かったって思い知らされる。  私はあなたと出逢ってこの子を授かった。それだけでもう十分。  幸せになってください。私も幸せになります。 「――おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」  息子は二歳になった。ほっそりした輪郭と、薄めの唇に痩せた体格。DNA検査をするまでもない、この子はテルヤさんの子だ。だがそんなのは関係なく育ててきた自負はある。とおしゃーん、と駆け寄ってくるこの子が愛しい。  そして今、僕があやしている赤ちゃんは、間違いなく僕とハナの子供。僕に似て女の子なのに大きくなりそうだな。  一つだけ心配なのは、ハナのあの体質が遺伝していないかということだ。男を夢中にさせる体質なんて要らないのにな。ダラダラ出てくる赤ちゃんの涎を少しだけ確認してみたが、痺れるようなことは無かった。  大丈夫だと思うんだけど……女の子を持つと父親は心配でたまらなくなるというが、全くその通りだ。娘が思春期になったら、きっと僕は娘に寄り着く男を逐一チェックして嫌がられるだろう。  今よりも十五年後ぐらいの自分を想像して笑ってしまう。  この子たちを大切に育てよう。  ハナも子供達も、僕の宝物だ。
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