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涙のたまねぎ
「っぐす、もうこんなところにいれないわ、ジーアワ島に帰るしかないのかしら…。」
タマゴーラとトリムネの話を聞いたオニリーヌはそう呟き学園の寮の一室で荷造りをしていた。
「お父様とお母様ははやく帰っておいでと
言ってくださったけど…ジーアワ島の民にはなんて言えばいいのかしら、こんな私を期待し、励ましてくださったのに。」
彼女の住んでいるジーアワ島はゴヒョツゴの国に属する沢山の玉ねぎ族が住んでいる賑やかな島で、年間の平均気温16℃という温暖な気候であり、かつ、日照時間も長く、寒さが苦手なオニリーヌにとってはとても住みやすい故郷だった。
ジーアワ島のあたたかい太陽の元なら今ある
失恋の悲しみも癒してくれるかもしれない。
民のことは大変申し訳なく思うが、かといっていつまでもここにいるわけにはいかない、とオニリーヌは荷物を持ち自室の扉を開けようとした。
その時だった。目の前の扉からけたたましいノックがした。オニリーヌが慌ててすぐ目の前にある扉を開けるとそこにはダシ族の出身の友人、ダーシュレイが立っていた。
「オニリーヌ!いるか!」
「わっ!…だ、ダーシュレイ!?」
「ああ、俺だ…よかったまだいた…
ジーアワ島に帰ってしまうと聞いて心配で駆けつけたんだ、この前は大変だったな、
怪我のせいでそばにいてあげられなかったことが悔しくてたまらん。」
「ダーシュレイ…。」
ダーシュレイの優しい言葉にオニリーヌの目から枯れたと思った涙がまた溢れ出してくる。
ダーシュレイはダシ族の中で鶏肉族を守る辺境地方の有力武人の子供で、学園で唯一登校が許された貴族以外の身分のクラスメイトだ。
オニリーヌとは貴族ではなく雇われの武人の子供、という理由で入学当初はよくいじめられていたダーシュレイを助け、それ以降仲良くなったという経緯がある。
「オニリーヌ…本当にジーアワ島に帰ってしまうのか?」
「ええ…私はトリムネ様をお支えするためにこの学園に来たんだもの、それをタマゴーラに奪われた以上…もう私に居場所はないわ。」
「…帰ったら、もうここには来ないのか。」
「そうね、きっとトリムネ様はこのままタマゴーラを王妃として迎えるのだから…私はジーアワ島の虹の森にある屋敷でなごいかでも食べてまったりする予定よ。」
「……。」
「ダーシュレイ?」
学園からの別れを改めて悲しく思いながら今後の予定を話したオニリーヌの前まで、
ダーシュレイは口を固く閉じていた。
一体どうしたのだろうかとオニリーヌは首を傾げると、次の瞬間彼はこう言った。
「俺と婚約してくれ。」
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