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エンカウントチキン
「俺の次はどんな奴かと思いきや、田舎の武人の息子とは随分と安い男に嫁ぐんだな?」
ダーシュレイと手を繋ぎ、もうすぐ館が見えてくるという場所でトリムネが2人の前に現れる。
「これこれは皇太子殿下…どうしてこちらまで?本日は雪の影響で欠便だったはずですが。」
「自家用のヘリできた、この鶏肉族に行けない土地はない。」
「そうですか、では何用で?」
冷たいトーンでダーシュレイに質問を重ねられたトリムネは勢いよくオニリーヌに指をさす。
「そこの女に父上からの恩恵を伝えにきた。」
「国王様から…?」
「そうだ、父上はお優しくてな、貴様を側室になら俺の元に戻してやってもいいと仰せだ。」
「側室…!?てことは、正室はタマゴーラ?」
「そうに決まっているだろう?馬鹿なのかお前は散々こんな野蛮な町の空気を吸ったせいか?」
「野蛮とは失礼な!!
ドウホッカイを馬鹿にするな!!」
故郷のことを馬鹿にされたことが許せなかったのかダーシュレイが層強い口調でいい放った。対してトリムネは匂うと言わんばかりに鼻を摘んでこちらを挑発する。
「おー、怖い怖い、のちの国王相手に無礼な武人だ…で、どうするんだ、俺は寒いのが嫌いなんだ、早く決めろ。」
「わ、私は……もう貴方様には…。」
「ほう?断るのか?いいぞ、お前の民がどう思うかは知らないが。」
「!…」
「ジーアワは島国だ、なごいかと森しかなかったあの国に我々鶏肉族は最新の設備と技術、文化をもたらした歴史がある…そんな恩人ともいうべき鶏肉族の救いの手を貴様は自ら拒んだ、
もしこんなことが島中に広まれば貴様は恩知らずの令嬢とよばれ、最悪反乱が起こるだろうな。」
「そんな…やめてください!」
断ろうと思っていたオニリーヌはトリムネの言葉に動揺した。寮を出ようと決めていた時から頭によぎっていた民への思い、それを鋭く突かれ彼女の判断が揺らいでいく。
…私はジーアワの民に感謝している、それなら、ジーアワのためにトリムネ様の手を取るべきなの…?
そう思いかけたその時だった。
「恩知らずはお前の方だ。」
ダーシュレイがトリムネを睨みつけた。
「オニリーヌはお前ひとりのために学園に入り、お前に恥をかかせないよう勉強し、苦手な刺繍は何日もかけて練習した、成績も常にトップを保ち辛いことも、悲しいことも全部お前との将来のために耐えてきたんだ!それをお前は彼女に何一つ気遣いなく、パーティなんかで婚約破棄して晒し者にした、お前以外の誰が恩知らずなんだ!」
「ダーシュレイ…。」
自分のことで国王相手に反抗したダーシュレイにオニリーヌの凍りそうな涙が引っ込んだ。
そして、彼の自分に対する想いが本物で、とても大きく、深いものであると実感した。
そして、こう自覚した。ダーシュレイが好きである、と。
「お前…貴様、この俺になんて口を…!」
「うるさい、オニリーヌに謝れ!」
「ッああ?このダシ風情が…!!」
貴族以下の身分であるダーシュレイに恩知らずと言われたトリムネは激怒し、肩に下げていた巨大な手羽先を持ってダーシュレイに向かって振り上げた。
オニリーヌは慌ててダーシュレイを庇おうと繋がれていた彼の手を振り解き、前に出る。
途端に彼女の身に鈍い痛みが走った。
「いた…っ。」
「オニリーヌ!」
「や、やめてください、トリムネ様…。」
「クソッ!貴様、なぜこいつを庇う!」
「彼は私の大切な人ですっ!もうやめて!」
何度も手羽先で叩かれながらオニリーヌはそう懇願した。すると、怒り狂う彼の姿を遠目から何者かが見ていることに気づいた。
…あれは…誰…?
そう思った時、首筋を思い切り手羽先で叩かれたオニリーヌは地面に突っ伏した。
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