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年の瀬の夜、憲太郎(けんたろう)は4年ぶりに故郷に帰ってきた。憲太郎の実家は片田舎にある。東京に住んでいる憲太郎にとって、懐かしい風景だ。高校生までは当たり前のように見ていた光景だが、東京に来てからは見る機会がなくなった。それでも、寂しいと感じた事はなかった。だが、2019年の暮れに起こった新型コロナウィルスによって、事態は大きく変わった。翌年の春に日本でも流行し出すと、外出などが制限され、密を防ぐようにと言われる。そして、帰省ができなかった。憲太郎はそんなコロナ禍によって変わってしまった社会の中で、寂しさを感じていた。だが、徐々に騒がれなくなっていき、規制が和らいでいった。そして、やっと帰省できるようになった。
「久しぶりに帰って来たなー」
実家の最寄り駅にやって来た憲太郎は外の空気を大きく吸い込んだ。これが故郷の空気だ。懐かしいな。もうすぐ両親と再会できる。両親はどんな表情で迎えてくれるんだろう。楽しみだな。
「やっぱここの空気はおいしい!」
憲太郎は実家への道を歩き始めた。とても懐かしい風景だ。高校までは毎日のように通った道だ。今でもあの時のように残っている。まるであの日から時が止まっているかのようだ。
「もうすぐ実家に着くのか」
歩いていくうちに、実家が見えてきた。実家も変わっていない。それを見るたびに、ほっとする。どうしてだろう。懐かしいからだろうか?
憲太郎は実家の前に立った。これが実家だ。ここもあの時と変わっていない。もうすぐ母に会える。電話でやり取りしているけど、やっぱり間近で会えるのがいいな。もうすぐ間近で会える。
「ただいまー」
憲太郎は玄関から家に入った。玄関から入った所の廊下も昔と変わっていない。
「おかえりー」
母がやって来た。3年前とほとんど変わっていない。ただ、少し白髪が増えたぐらいかな?
「久々に帰ってこれて、よかったでしょ?」
「うん! やっと帰れて、本当に嬉しいよ!」
憲太郎は笑みを浮かべた。やっぱり故郷はいいもんだ。
「苦しかったけど、ゆっくりしていっていいんだよ」
「ありがとう」
憲太郎は靴を脱ぎ、2階に向かった。2階には自分の部屋がある。もう3年も入っていないけど、どうなっているだろう。あの時と変わっていないんだろうか?
憲太郎は自分の部屋に入った。3年前に帰って来た時と全く変わっていない。入ると、なぜか落ち着く。子供の頃からいる部屋だからかな?
憲太郎はベッドにあおむけになった。仕事やら移動やらで色々と疲れた。だけど、ここは実家だ。また東京に帰るまでゆっくりしよう。
「最近、どう?」
憲太郎は顔を上げた。母がやって来たようだ。母は掃除道具を持っている。まだ大掃除が終わっていないようだ。
「徐々にコロナ禍から元に戻って切って、嬉しいよ」
「よかった」
2人はほっとしていた。ようやくコロナ禍が終わり、元の生活が徐々に戻ってきた。離れ離れだったけど、やっと元に戻ってこれた。
「いろいろあったけど、実家でゆっくりしなさい。そして、来年また頑張ってね!」
「うん!」
憲太郎は疲れたのか、そのまま寝入ってしまった。東京での忙しい生活の疲れが一気に出たのだろう。それからの事は全く覚えていない。
翌日、憲太郎は実家で目を覚ました。実家で目が覚めるのも久しぶりだ。ここで目覚めると、やっぱりほっとする。
憲太郎は1階にやって来た。1階では母が料理を作っている。高校生までは見慣れた光景だが、大学に入ってからはほとんど見なくなった。
「おはよう」
憲太郎は椅子に座り、朝食を食べ始めた。母の朝食を食べるのも久しぶりだ。この朝食を食べると、ほっとする。母のぬくもりって、こんなのかな?
朝食を食べ終わった憲太郎は、歯を磨き、2階でゆっくりしていた。まだ疲れが残っている。ゆっくり休もう。
目を覚ますと、10時ぐらいだ。ちょっと気晴らしに外を散歩してみようかな? 久しぶりに故郷の風景を見たいし。
憲太郎が玄関に向かうと、母がやって来た。出ていくのに反応したんだろうか?
「出かけるの?」
「久しぶりに散歩してみようかなと思って」
「そう」
母は嬉しそうだ。帰省を楽しんでいるようで何よりだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
憲太郎は家を出て、周辺を散策し始めた。3年間の間で、故郷はどう変わったんだろう。見てみたいな。
「懐かしい風景だなー」
だが、あの時と全く変わっていない。まるで自分が帰ってくるのを待っていたかのようだ。
「憲太郎!」
その声に、憲太郎は反応した。後ろには男がいる。高校時代の友人で、野球部の同僚の魁人(かいと)だ。年賀状のやり取りはしているが、間近で会うのは高校を卒業して以来だ。
「あれっ、魁人じゃないか!」
「久しぶり!」
2人は久々の再会を喜んでいるようだ。まさか、ここで再会するとは。
「あれからどうしてたのかなと思って」
「相変わらずだよ」
と、魁人は気になった。憲太郎は東京の大学に進み、東京に住んでいると聞いた。大学を卒業後、就職したという。あれからの生活はどうなったんだろう。気になってしょうがなかった。
「東京での生活、どうだい?」
「コロナ禍で大変だったけど、やっと元の生活が戻ってきて、仕事も順調になって嬉しいよ」
魁人も同感だ。コロナ禍によって生活が大きく変わり、会えない日々が多くなった。だけど、ようやく元の日常が戻ってきた。
「そっか。コロナ禍で大変だったもんね」
「うん」
と、魁人は考えた。今夜、居酒屋で一緒に話そう。何があったのか、共に話せば、気持ちが軽くなるだろう。
「なぁ憲太郎、今夜、居酒屋で飲まないかい?」
「いいよ!」
憲太郎は賛成した。久々に会えたんだから、今日は飲もうじゃないか。
「じゃあ、待ってるよ!」
「うん!」
突発的だが、2人は近くの居酒屋で飲む事になった。2人で飲むのは初めてだ。楽しみだな。
その夜、憲太郎は約束の居酒屋の前にいた。居酒屋には何人かの人がいた。そのほとんどは地元の人だ。外は寒く、身が震える。
「もうすぐだな」
と、そこに1人の男がやって来た。魁人だ。朝と同じ服装なので、すぐにわかった。
「おう、魁人」
「待ってたんだね」
「うん」
憲太郎は笑みを浮かべた。約束通りに来てくれた。魁人は嬉しそうだ。
「じゃあ、行こうか?」
2人は居酒屋に入った。居酒屋には何人かの人がいる。彼らはとても楽しそうだ。
「いらっしゃい!」
すぐに店員がやって来た。店員は黒いエプロンを付けている。
「2名様で」
「こちらへどうぞ」
2人はカウンター席に座った。カウンター席には、2人の他に誰もいない。店内は閑散としている。
「いらっしゃいませ、お飲み物はどうしますか?」
「生中で」
憲太郎は生中を注文した。居酒屋で飲むときは、まずは生中から頼むのが定番だ。
「俺も生中で!」
「かしこまりました!」
2人とも嬉しそうだ。高校を卒業して以来の再会だ。今日は思いっきり楽しもう。
「また会えると思わなかったよ!」
「うん!」
魁人は気になった。年賀状によると、東京にいると聞く。だけど、東京で何をしているんだろう。とても気になるな。
「東京で何をしてるの?」
「普通にサラリーマンをやってるんだ」
「ふーん」
普通にサラリーマンをやっているのか。ごく普通の大人になってしまったのかな?
「お待たせしました、生中です!」
「ありがとう」
2人の目の前のテーブルに生中が置かれた。生中はキンキンに冷えている。とてもおいしそうだ。
「カンパーイ!」
「カンパーイ!」
2人はジョッキを合わせて、乾杯をした。そして、生中を飲み出した。だが、それだけでは酔わない。
「魁人は何をしてるんだい?」
「俺は小学校の教員をしながら、リトルリーグの監督をしてるんだ」
魁人は地元で小学校の教員をしながら、リトルリーグの監督をしているそうだ。リトルリーグはそんなに強くはないものの、一生懸命やっているようだ。今でも野球に携わっているとは。高校3年で引退してから、野球と関わりを持たなくなった自分とは正反対だ。
「ふーん」
「子供たちに囲まれて楽しいし、好きな野球を教える事ができるし」
魁人は嬉しそうだ。小学校でもリトルリーグでも、大好きな友達に囲まれて過ごす。それが好きで好きでたまらない。
「野球か・・・。俺はもうやめたんだけどな」
憲太郎はため息をついた。甲子園に行けなかったし、高校の野球部を引退してから、もう野球をやらなくなった。普通のサラリーマンになってしまた。夢なんて持たなくなった。そこも自分とは正反対だな。
「そっか。僕はまだまだ野球を忘れる事ができないんだ」
「そうなんだ」
魁人はまだ、夢を忘れられないようだ。いつか、自分が教えた子供の中に、プロ野球選手になる人が出ないだろうか? もし出たら、嬉しいな。
「いつまでも夢を持ち続けている魁人って、すごいなー」
「ありがとう」
魁人は笑みを浮かべた。憲太郎に褒めてもらえるとは。ただ平凡に頑張っているだけなのに。
「俺はサラリーマンで平凡な毎日を送ってるけど」
「ふーん」
憲太郎は東京での出来事を思い浮かべた。毎日、仕事ばかりで忙しくて、自分だけの時間が取れない。そして、夢も持てない。だけど、それが普通だと思ってきた。こうして話しているうちに、夢を持つことって大事だなと思い始めてきた。
「夢を持つって、いい事だな」
「確かに! いい事言うじゃん!」
魁人は憲太郎の頭を撫でた。憲太郎は嬉しくなった。
そして時間過ぎていき、帰る時間だ。会計を済ませた2人は、居酒屋の前に立っていた。そろそろ閉店のようで、店員がのれんを外している。
「今日は楽しかったよ! ありがとう」
「またね」
「またね」
そして、2人は別れた。こうやって、2人で再会すると、わかる事がいろいろあるんだろうか? それは、単なる偶然だろうか? 全くわからない。
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