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「見マシた、か?」
「えっ」
ゆらりと、至近距離で私を見つめたまま、ライが上半身を起こす。初めて見る、無表情。
何かの警告を受けたかのように感じて、頬を引つらせながらも笑ってみせた。
「ファスナーのピアスなんて、変わってるね」
「ああ、そうキマスか?」
いつもの、笑顔。なのに、とてつもない違和感のある笑みを、ライは浮かべていた。
そのまま軽く首をかしげ、自分の喉仏の辺りに手をやる。小さく咳払いした、のち。
「いいんですよ、本当のことを言ってくれて」
流暢な、日本語。ややハスキーな艶のある声は、どこかで聞いたことのある声。
それが、ライの口から発せられた。
「……あれ? おかしいな、もっと喜んでくれると思ったのに」
くすっと笑う、その声。あまりのことについていけない鼓動が、滅茶苦茶な心音を奏でて耳もとで響く。息が、うまくできない。
ライの唇が、そんな私の耳もとでささやいた。
「あなたの好きな、緒方さんの声ですよ?」
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