やっぱり君には会えません

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〈リク! 久しぶりじゃん。俺は元気だよ。そう、今は東京のはずれに住んでる。誰から聞いたの?〉 〈ヤマシタだよ。この前会ってさ、たまたまリクの話聞いたんだ。東京の会社に就職したんだってな〉  ヤマシタのやろう、ペラペラと俺の個人情報を話しやがって。  ヤマシタはリクと同様、高校一年生のときに一緒にいた友達だった。さらに二年生、三年生、大学までたまたま一緒だったから、今でも会って話す関係だ。  ため息をつき、スマホを再度放り投げる。  そして少し考え、意を決してまたスマホを手に取った。 〈ごめん。会いたいけど俺、毎日くたくたでさ。いま働いてるところ、そこそこのブラックなんだよ。毎日残業も多くて体力的につらくてさ、とてもじゃないけど会えそうもない〉  やはり、会うのはよそう。触らぬ神に祟りなしだ。  実家にある十二個の壺は、親父が知人に騙されて買ったものだった。  〝この壺を買うと運気が上がる〟——そんな甘い言葉にそそのかされて、ひとつ百万、気づいたら一年で十二個買っていた。親父は祖父と違って経営の才はなく、祖父が亡くなってからというものの会社の業績は緩やかに下がっていた。だから藁にも縋る思いだったのだろうけれど、俺が気づいて壺の購入を止めたころには損害は千二百万になっていた。  俺は親父と同じ轍は踏まない。  家を出た俺は祖父の恩恵などあてにせず生きていくつもりだから、なおさら自分の身は自分で守る必要がある。 〈休日もほとんど寝て過ごしてるようなもんだからさ、ごめんな。でも連絡くれてうれしかった!〉  これは百点の返しだ。会えない理由が明確である。さらに、ブラック企業イコール薄給というイメージからお金がないアピールもできている。完璧だ。  俺は壺を買う金なんかない。買えないやつにしつこく勧誘はしないだろう。  ソファに座りガッツポーズをしていると、リクからすぐに返信が来た。  
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