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「あ、ヒロくんおかえりー」
その日、定時で仕事を終え急いで帰宅すると、リビングにミズホの姿があった。
二週間の海外出張に出ていたミズホは、玄関にトランクを放置したままラグの上でごろごろしていた。
よほど疲れたのだろう。いつもすぐ落としたがる化粧はそのままだし、ローテーブルの上には日本食の定番、おにぎりが食いかけで置かれている。
久しぶりにミズホがいる部屋が、なんだか明るく見えてほっとする。
改めて、ミズホという存在の大きさを思い知らされた。
「おつかれ。疲れてるだろ? 昨日作ったカレー、残ってるけど食べる?」
「ありがとー、食べる。……カレーって、ヒロくんもしかして、私がいない間またカレーばっかり食べてたんじゃないよね? 私がいなくてもちゃんと栄養あるもの食べてたよね?」
バレてる。俺の料理のレパートリーはミズホの指導のおかげで少しは増えていたが、ミズホが出張に行っている間は大好物のカレーしか作っていなかった。
「当たり前だろ、子どもじゃないんだから。今はタンパク質の時代だぜ」
そう言い残してキッチンへ向かった。燃えるゴミの一番上に浮かんでいるバーモントカレーの空箱たちを奥深くへ押し込みつつ、冷蔵庫からカレーの鍋を取り出す。
それを火にかけ温め直していると、リビングから声がした。
「あ、ヒロくん、なんか荷物届いてたよ」
ミズホが起き上がり、ダイニングテーブルの上を指差している。
そこにはダンボール箱がひとつ置かれていた。
「さっき宅配の人来てさ。〝サワダリクさん〟からだって」
「リク……」
ぎくりとする。リクがどうしてうちの住所を知ってるんだ?
リクをブロックしたあの日から、五日が経っていた。
チャットの中で、たしかリクは〝家どこ?〟と言っていた。だからあの日の時点でリクは俺の居場所を知らないはずだ。でもリクはこの五日間で俺の住所を把握し、謎の箱を送りつけることに成功している。
嫌な予感しかしない。
でも、ミズホに余計な心配をかけたくはなかった。訝しげな表情をしているミズホに、友達からだよ、と言い残し、カレーの火を止め自室に入った。
ダンボール箱は片手で持てるほど小さく、軽い。
なんなんだ。怖すぎる。
恐る恐る開けると、中には緩衝材に包まれた小さい箱と、手紙が入っていた。
箱は怖くて触れず、とりあえず手紙を先に開いた。
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