やっぱり君には会えません

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 手紙を読み終えて、愕然とした。  俺はリクに結婚の報告をしていなかった。  だって、七年ぶりにいきなり連絡して結婚報告をできるほど仲がよかったわけじゃないし。式を挙げるなら呼ぶかどうか考えたかもしれないけれど、リクの言うとおり忙しかった俺たち夫婦は、挙式にこだわりがなくいったん保留にしてしまったし。  なのに、俺はリクを根拠もなく疑って、せっかくの誘いを拒否してしまった。  リクはこんなにも俺の結婚を喜んでくれたのに。  純粋に俺を喜ばせようとしてくれていたのに。  なんで、俺は……。  緩衝材に包まれた品を開いた。  リボンが巻かれたおしゃれな箱に、どことなく高級感の漂うペアのグラスが入っていた。  思わずスマホに手を伸ばし、チャットアプリを開いてリクのブロックを解いた。ブロックをして五日、その間にリクが俺にチャットを飛ばしたかどうかはわからない。でも、ブロックしたのがバレたとしても、今すぐお礼の言葉を届けたかった。 〈リク、ペアグラス届いたよ。びっくりした。本当にありがとう。結婚のこと、言ってなくてごめん。いきなり連絡していいものかわからなくてさ……。リクの気持ち、すごくうれしかった。俺と奥さんの仕事が落ち着いたら、とりあえず披露宴はしたいと思ってるんだ。だからそのときは来てくれよな〉  高校のころの記憶が蘇る。  みんなでひとつのディスプレイを囲んで、わいわいオンラインゲームをしたこと。  サボりたくないと駄々をこねる俺を引っ張り、一時間目から学校を抜け出して海へ連れて行ってくれたこと。  俺は、今のミズホとの生活が幸せすぎて、この生活を壊されたくないと疑心暗鬼になっていた。でも、男子ばかりで集まって騒いだあの日々もたしかに幸せだった。  リクも間違いなく、その思い出の一部だ。  そんなリクをないがしろにしてしまった。  かけがえのない友人を失うところだった。  ごめん、リク……。  涙ぐみつつスマホの画面を見る。  滲む視界の中、リクからの返信がディスプレイの上に浮かんでいた。 〈気に入ってくれてよかった! ところでさ、そのグラスいいデザインだろ? 使ったら感想聞かせてよ。このメーカー、ほかにも電子レンジとか食洗機とかいろいろ扱っててさ、すごく性能がいいんだ。会員になって商品を売れば儲けることだってできるんだぜ。見せたい商品たくさんあるから、今度紹介させてくれよな!〉    
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