1 哀惜の咆哮 ①※

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「ユ……キ」  切なく蕩けた顔つきで神様が幸紘を見る。その顔は側線愛撫の甘イキでとろとろになった昨夜の続きを匂わせて、幸紘の身体の中心がずくずくと熱を帯びる。 「神様」  低く、熱っぽい声で幸紘は神様の唇を求める。幸紘から差し出される舌を食むようにして神様の唇が触れて、互いの唇が重なっていく。冷えた朝のほどよく暖まった布団の中でしめやかに湿度の高い淫靡な触れあいが続いた。  日曜の夜なら何をしてもいいと神様は言った。週末だと翌土日に神職としてのお勤めがある以上、肉欲の穢れを背負うわけにはいかない。翌日が平日なら俗世の生活に戻るだけなので問題がなかった。 「契りたい」  幸紘はいきり立つ欲望の熱を神様に遠慮なく擦り付けて耳元に囁く。神様は熱っぽく息を吐いた。 「だめ」 「どうして? 全部くれるんでしょ?」 「……正階(せいかい)、とったら……って、言った……じゃん。それに、今日……休み」 「でしたね」  今日が月曜でありながら平日でない国民の休日である以上、幸紘は家業をしなければならない。そうしてもう一つ、神様から出された条件を思い出して動きが止まる。   全部くれてやる。神様はそう言ったが未だ契るまで至ってはいない。神様が契りたいと本気で思っているのなら正階をとれ、とも条件をつけたせいだ。 「次々に条件を増やすぅ」  ぐりぐりと胸元に額を擦り付けて幸紘は不満を訴えた。神様は軽く息を吐いて体の熱を逃がすと、普段から癖が強い上に寝癖が付いた駄々っ子の髪を嫋やかな指で梳いてくれる。 「未熟な状態で神と密接過ぎる関係を結ぼうものなら、どんな化け物になるかわかったもんじゃねえよ。だから正階までは修練をして欲しいんだよ」 「正階って言ったら親父のランクじゃないですか。その歳まで我慢したら不能になるんじゃないですか、俺」 「少しはおとなしくなった方がいいよ。じゃなきゃ俺の身体がもたねえわ。逆に言ったら、正階とったらもうそれ以上に条件はつけないから」 「ほんとに?」 「約束する。神が誓ってんだから、信じろ」  神様はちゅっと軽く幸紘の唇にキスをする。それが何を意味するか、二人の間ではもはや周知の『まじない』だった。 「ほら、誓約を封印。なんだろ?」 「とりますよ、正階。何年かかってもね!」 「うちの禰宜のやる気が怖いなあ。さ、風呂で潔斎してこいよ。それとも煮え切った肉欲を媛の朝飯にくれてやるか?」 「冗談でしょ」  幸紘は唇をとがらせ、ゆっくりと身を起こしながら髪をかきあげると、ふーっと深呼吸をする。肩口からするりと布団が落ちる。むわっと籠もっていた不埒な熱気が朝の冷気に溶けていった。
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