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3 こどもとかみさま ⑤
風呂場からは水音がしていた。子供が入っているのだ。
未就学児に見えたが、幸紘が風呂から上がってくると自発的に入れ替わりで風呂へ向かった。一緒に入るかと昨日聞いたがそれは拒否された。
その間に幸紘は宮司室へ仕舞ったガチャガチャの本体を下ろしてくる。中身を補充していないので残りが二個しか無い。
部屋の片隅にはできあがった中身が入った籠がある。こういう内職もあるらしく、一個あたりの単価は比較的高い。カプセルに入れる作業はなかなか手間で、それも当然なのかな、と幸紘は思った。
売上金を回収した後、籠からいくつか中身を選んで補充する。ばたんと、鍵を閉めたところでこざっぱりと綺麗に洗われた子供が風呂から出てきた。
「おいで」
幸紘は手招きする。子供は顔をぱあっと明るくして、とととと走ってくると、ガチャガチャの本体の前にちょこんと正座した。
幸紘は本体下部から先に取り出していたコインを三枚渡す。今日の売り上げは参拝客の数と等しかった。
「これをね、ここに三枚入れて」
幸紘に言われるまま、子供は縦型の穴の中にコインを入れる。
「そうしたらこの回転レバーを回す。決して逆に回したらダメだよ。壊れるから」
がちゃん、がちゃん、と音を立てて子供が回転レバーを回す。一周したところでころん、と青のカプセルが出てくる。半分は透明のそれを子供は両手で恭しく手にするとしげしげと中身を眺めた。
「あけてごらんよ」
子供が幸紘の顔を見上げる。開け方がどうやらわからなかったらしかった。
「こうやってね、ぐっと力をかけてひねるようにすると」
別のカプセルで幸紘は見本を見せてやる。動作を見ていた子供は弱そうな握力で顔に力を込めて中身を開けた。
出てきたのは鯰だ。
それを見る子供の目が大きく開く。口元が喜びに開き、音にならない声が嬉しさをため息とともに吐き出す。
子供が幸紘を再び見上げる。これは自分のものだろう、と念を押すような視線だった。
「いいよ。新作。これが欲しかったんだろ? 君のものだよ」
子供はよほど嬉しかったのか下から覗いたり、右から左からありとあらゆる角度からそれを眺めている。好きなものに迷いのない瞳がきらきらと輝いていた。
幸紘はその傍らで布団を引き始める。子供が幸紘のスウェットの裾を引いた。
「なに?」
子供がガチャガチャの本体をぱしぱしと叩く。もっとさせて欲しいと要求していた。
「いいよ。そこにコインがあるんだろう。三枚で一回ね」
こくんと子供が頷く。彼はコインを全て小さな手の中に握ると本体の前にお行儀良く正座した。
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