1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ねえ、美夕ちゃん」
と、須藤宏子はあたしの名を呼んだ。「もう、翔とはこれっきりにしてほしいの」
彼女があたしを見る目は冷たく、傲慢で、あなたはわたしの言うことをきくのが当然でしょ、とでも言いたそうだった。
あたしは思わず「ハァ?」と声をあげ、須藤宏子をにらみつけた。
彼女は、あたしのカレシである翔くんの祖母だ。
あたしたちはいま、翔くんの家のダイニングキッチンで、テーブルをはさんで向かいあっていた。
テーブルには、緑茶と、年寄りが好みそうな駄菓子の煎餅が出されている。
「なんですか、それ。翔くんとは、もう付き合うな、ってことですか?」
「そういうこと」
「どうして? あたしが、翔くんにふさわしくないとでも?」
「んー、まあ、ありていに言えば、そうなるかもしれない」
「ちょっとォ。失礼じゃないですか」
あたしが抗議すると、宏子は、ふふっ、と人を馬鹿にしたように笑った。
「ふさわしくない、というか、つまり……こういう関係は、よくないと思うのよね。神さまが許さないことだから」
あたしはもう一度「ハァ?」と、うなり声をあげた。
なに言ってんだろ、このババァ。
本当に「ババァ」とののしつてやりたかったけど、さすがにそれはこらえた。
それに、思い当たることが、ないではなかった。
要するに、不健全な交際だと言いたいのだろう。
あたしと翔くんとの付き合いは、今年の四月にさかのぼる。
あたしが通っている私立高校に、二年への進級と同時に、翔くんが転校してきたのが、出会いの始まりだった。同じクラスになったあたしに、翔くんのほうから声をかけてきて、付き合いが始まった。三ヶ月もしないうちに、あたしたちはお互いの体を確かめ合うようになった。
エッチするのは、たいてい翔くんの家、つまりここでだ。二階の翔くんの部屋で、あたしたちは抱き合った。
そういえば、行為の最中に、ときどき、人に見られているような気がしたものだった。あれは気のせいなんかじゃなかったのだろう。きっとこの宏子が、あたしたちのことを覗き見していたに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!