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「話を聞いてるとその頃のこと思い出すよ。なんかさ、毎日時間に追われて綱渡りの気分だったな。でも俺は親が一時間くらいのとこに住んでたからまだマシだった。そんなしょっちゅう頼ってたわけじゃないけど、いざというときの緊急避難先があるってだけで違うから。涼音ちゃんはそれもできないんだもんなぁ」 「ええ、私の実家はちょっと距離あるから。隆則さんと知り会ったときみたいに、友達の結婚式とかそういう特別な機会には連れてって預かってもらうけど。普段は頼れないし、……頼らないようにしたいと思ってる」  涼音は所謂未婚の母で、雪音が生まれる際には親とかなり揉めたらしい。  それでも、最終的にはどうしても産むと言い張る娘に親の方が折れる形になって、特に確執は残らなかったようだ。  実際に今も実家とは行き来があり、親も孫である雪音のことはとても可愛がってくれているという。 「俺もいい年して親には心配掛けたからなぁ。特に離婚したばっかりの頃は、母が泊まり掛けで来てくれてさ。でもあれはホントに助かった。家事にも全然慣れてなかったし」 「隆則さんは実際によくやってると思うわ。私の職場は共働きで子持ちの人が凄く多いし、私みたいなシングルマザーも珍しくないから。気を遣うのは当然としても、お互いさまで順送りっていうか自分がしてもらった分は後に続く人たちに返すって空気があるのよ。育児だけじゃなくて、病気とか親の介護なんかでいつ自分がそっちの立場になるかわからないもの。でも、隆則さんの会社はそういう感じじゃなさそうだし」  心底感心したように労ってくれる彼女の目を、真っ直ぐ見返せない気がした。
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