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「一日のうちでその限られた時間だけ、ただの自分に戻れるの」  お互いの息子を連れての、何度も重ねた結婚前提での交流の一場面。  涼音(すずね)と交わした会話を隆則(たかのり)はよく覚えている。    その時は、土曜日に四人で遊園地に出掛けた。  隆則の息子である四年生の航大(こうだい)が涼音の息子である四歳の雪音(ゆきね)にせがまれて二人きりでメリーゴーラウンドに乗っている。  その様子を柵の外から並んで見守りながらの、何気ないやり取りだった。  何の気負いもない口調、表情。  気を付けて見ていなければ、ただの世間話として流れてそのままになってしまう。 「とにかく勤務時間中は他の何も考えられないくらい必死で仕事してる。何があっても保育園のお迎えに遅れるわけには行かないから、昼休みもパン齧りながらPCに向かってたりして。で、時間になったら周りに頭下げて、職場飛び出して保育園に走るのよ」 「俺も、航大が保育園に通ってた時はそうだったな」  ああ、そうだ。  まだ「そうか、そんな時代もあったなあ」などと感慨に耽る心境には達していないものの、隆則にとっては間違いなく過去だ。  しかもたった二年足らずの保育園生活でしかなかった。 「そうね、隆則さんも経験者だものね。でも駅までは急ぐけど、電車に乗っちゃったらもうじたばたしても無駄だから、開き直って頭切り替えてるのよ。本読んだり、音楽聞いたり。いっそ何も考えずに、ひたすらボーっとしてることもあるわ」  隆則の言葉に、涼音は笑って頷いた。
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