10人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話 魔法都市・ミクリエール
「フランちゃ~ん! こっちこっち~!」
リリィがフランツィスカの姿を視認して、ぴょんぴょん跳ねながらブンブンと大きく手を振る。
街の人々が振り返るものだから、思わず扇子で自分の顔を隠してしまった。
「あまり大声を出さないでいただける? まったく、恥ずかしいですわね……」
――週末、学園の休日。
フランツィスカはリリィと待ち合わせをして、魔法都市・ミクリエールにやってきた。
この街は魔法使い御用達の店が並ぶ魔法の街だ。
魔法薬の材料も新品の杖や箒も、ここに来れば何でも揃うと言われている。
ここに住居や工房、店などを構えている魔法使いたちも多い、そんな街である。
「それで、何を買いたいの?」
「あのね、ちゃんと買い物メモを作ってきたよ! 新品の杖と、マンドラゴラの根っこと、フェニックスの羽根でしょ、筋力強化の魔法薬の材料リストがこれで……あとは……」
「……あなた、それ全部抱えて持って帰るおつもり? わたくしは絶対持ちませんわよ」
リリィの手に持っている紙片に書かれたリストは文字がびっしりと書かれ、内容を見るに膨大な数である。フランツィスカは使用人のひとりふたりでも連れてくるんだったと既に後悔していた。
「大丈夫! この何でも入るなんかすごいカバンがあるから!」
リリィはフンスと鼻を鳴らして、肩にかけたショルダーバッグを得意げに指差す。
たしかにそれは収納魔法のかかった優秀な逸品だ。
(でもこれって相当な値段しますわよね……? 田舎貴族がどうしてこんなもの持ってるのかしら……)
疑問符を頭に浮かべながら、フランツィスカはリリィに手を繋がれて引きずられていくのだった。
***
――かくして、リリィの買い物リストにあったものは、すべて収納カバンが無事に呑み込んだのである。
「ね、そろそろお腹すいたよね? 何か食べて帰ろう!」
「そうね……ランチはどこにしようかしら……」
ミクリエールの案内所でもらった地図をふたりで覗き込みながら、あれこれと相談する。
リリィとお昼ごはんを食べられそうな場所を探しながら散策していくと、とある施設が目に飛び込んできた。
「どうしたの、フランちゃん?」
「ああ、いえ。ちょうどこの展覧会、見たいと思ってましたの」
それは美術館だった。ミクリエール周辺で一番大きなもので、フランツィスカの好きな画家が絵を展示しているという。新聞で広告を見て、そのうち行こう、と思っているうちに、そろそろ期間が終わるのだと今気づいた。
「見ていく?」
「でも……よろしいの? あなた、絵なんて見てもつまらないのではなくて?」
「正直絵はよくわかんない。でも、フランちゃんの好きなものは一緒に見たいな」
眉尻を下げて申し訳無さそうに、しかしいたずらっぽく笑うリリィに、フランツィスカはクスッと笑みをこぼす。
「でしたら、わたくしが絵の解説をして差し上げますわ。ランチは美術館併設のカフェがあるから、そこにしましょう」
「了解!」
――これが友達との付き合い、というものなのかしら。
フランツィスカは、リリィと過ごすこの時間が、案外嫌なわけではないと気づいた。
お店の商品を覗いたり、ウィンドウショッピングをしたり、ふたりでワイワイと魔法談義をしながら買い物を済ませていく過程は、たしかに――楽しかったのだ。
その日からだろうか、フランツィスカとリリィは少しずつ打ち解けていき、親友……とまではいかないが、他の生徒よりは少し距離が近い、くらいの関係性になったのである。
……しかし。
ラヴシック家はそんなふたりを温かく見守るような家庭ではなかった。
〈続く〉
最初のコメントを投稿しよう!