1.桃の香りを嗅ぎ、梨の皮に目印をつける

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 夏休み明けに歳桃が極悪非道なドッキリを仕掛けてきて、この時ばかりはさすがに我慢の限界を超えて、〝テメェ〟と叫んだ。  その時、何ていうかこの呼び方が一番しっくりきて、その翌日以降テメェと呼ぶようになった。  当然呼び方が変わったことに歳桃はすぐに気づいた。  ひょっとしてテメェ呼びが気に入ったのかい? 別に構わないのだけれど、たまには歳桃って名前で呼んでくれるかな。たまにでいいからさ。  テメェ呼びをしたことで歳桃が傷つこうがどうでもいい。特別困りもしないが、歳桃は自殺願望を抱いてる。だから万が一ということもある。  それに、だ。嫌いといえども。腐れ縁で共に危機を乗り越えたことがある歳桃に対して多少なりとも情を持っている。と言えなくもない。  私は歳桃の顔をバレないように慎重に窺ったのだが、傷ついた表情はしていなかったと思う。  寧ろ、珍しく生気のある瞳でゆったりとした微笑を漏らしていた気がする。  その日から今日まで、テメェ呼びに関してお互い話題に出すことさえ一度もない。  これは、歳桃には言ってないし言うつもりもないことなのだが。  実のところ、嫌だからやめて欲しいと歳桃に頼まれたら、やめてやらなくもないと思っている。 「僕の愛しのプリンセス。今か今かと心待ちにしておりました」  歳桃がそう言って私を愛おしそうに見つめてきた。嫌悪感を全くと言っていいほど隠しきれていないのはわざとに違いない。クソ野郎。 「だれっがだれっの愛しのプリンセスだッ!! テメェのプリンセスになった覚えはねぇしプリンセスでもねェ! 冗談でもプリンセス扱いしてくんのやめやがれ!」  私が睨み上げながらツッコみを入れた途端、歳桃は一瞬はっとした表情で自分の口元を押さえた後すぐに深々と頭を下げた。  演技とはいえ、こんなふうに自分に向かって頭を下げる歳桃の姿を見るのは初めてだ。  さすがに見て見ぬ振りをするわけにもいかず、私は困惑しつつも歳桃に声をかけた。 「お、おい……」  と、歳桃がさっと素早く頭を上げる。 「大変失礼いたしました。今か今かと心待ちにしておりましたよ。小さな、ちっちゃくて、ちっこいプリンセス」 「三連チャンでテンポよく身長弄りしてんじゃねぇよ!!」
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