1.桃の香りを嗅ぎ、梨の皮に目印をつける

12/29
前へ
/96ページ
次へ
「それにしてもなぜ急にタメ語なんだ」  私は困惑して眉をひそめる。 「しかも、ほぼほぼテメェの普段の話し方に戻ってるじゃねぇか。どうせ、私相手に敬語使うのがだんだんムカついてきただとか、面倒くさくなってきたからだとか。そういう理由でタメ語に変更したんだろ。王子役、テメェが勝手に演じ始めたんだからちゃんと最後まで演じきれよ。……つーか、王子の名前設定は本名のまんまなんだな。で。ツッコミたくないが一応ツッコんでやる。私は『ご苦労なこった』っていう皮肉を言っただけに過ぎねぇから、テメェを下の名前で呼んだことにはならねェんだよ」 「うんうん」  歳桃が真剣ぶった表情でこくこくと頷く。 「君の言いたいことは分かった。よく分かったから(かっこ)()(かっことじ)()(ろう)様って呼んでくれるかい? もちろん、演技なしの屈辱的な顔で」 「予想通り全然分かってねぇじゃねーか。誰が呼ぶかよ。わざわざ、かっことじ、まで言わなきゃいけねぇのが面倒くさいしな」  私が寝不足であることに気づいていながら、ドッキリを用いて今のところ邪魔しかしてない(歳桃)のわがままを聞いてやるほど。私はお人好しではない。 「ただ一つ聞かせろ。テメェは自分を様付けで呼ばせた程度で、私に屈辱を味わわせた気になんのか?」  私からの質問に歳桃は薄笑いを浮かべつつかぶりを振った。 「ならないけど、一秒でも早く君の屈辱に歪めた嫌そうな顔を見て心から笑いたい」 「テメェ!」  私は怒鳴ったが、「ねぇ」と歳桃が被せ気味に言ってきやがった。 「あまりにもやる気なさすぎない? 君も僕に合わせて、プリンセスを演じようとする素振りくらい見せたらどうなの?」  歳桃は既に演じる気が失せているようで、王子様がプリンセスに絶対に見せるべきではない不満顔で、自分の腰を折った。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加