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「昼休み、君が僕のために作ってくれたお弁当を食べていたら、」
歳桃が目を伏せつつスラスラと話し出したその内容に私は思わずぎょっとして、
「おいこら待て。私が朝早く起きて私のために作った弁当をテメェが勝手に盗んで、盗み食いしてたの間違いだろうが」
すぐさま遮って早口で訂正した。
「今日もいつものように君のリュックを開けて君のランチバッグを拝借して、㊙︎の場所でランチバッグから弁当箱を取り出してのんびりと食べていたら」
拝借したのではなく盗んだの間違いだが、面倒くさいのでスルーした。
弁当泥棒の歳桃のせいで、最初の頃は購買のパンを買いに行く羽目に、今では二人分作る羽目になった。
㊙︎の場所。歳桃は昼休みに入ると(私の弁当を盗んだ後)決まって行方をくらます。
「瑞姫が偶然通りかかってね。いきなり愛の告白をしてきた」
歳桃が浮かれ気味の声でそんなことを言ったものだから、私は二度びっくりして目を丸くする。
まず、歳桃の友人以外に歳桃を発見することができる人間がいたことに驚き、二度目は、歳桃が瑞姫の名前を挙げたことに驚いた。
瑞姫はあまりにも想定外の人物すぎて言葉を失う。
瑞姫──蒲谷瑞姫は、学年イチの美少女で、私が密かに憧れ尊敬している人物でもある。
瑞姫は、偶然を装って通りかかったふりをしただけで、本当は必死に探し出したはずだ。
歳桃も決して偶然なんかじゃないことを分かっていながら、それでもそう言わなかったのは。ドア越しに聞き耳を立てている瑞姫本人に勘づかれて警戒されないようにするためだ。
歳桃が不審者と無関係な人間の名前をこのタイミングで出すわけがない。
だから、瑞姫が不審者と関係があることは間違いない。
だが、歳桃が瑞姫にと口にしたことにより、浮上した可能性は、次に口にした愛の告白をしてきたという言葉で、消え去った。
浮上した可能性とは、不審者=瑞姫のストーカー。
だが、歳桃は瑞姫に告白されたことを躊躇なく打ち明けた。
告白話は、瑞姫のストーカーを逆上させるリスクが極めて高い話だ。
ストーカーではないとすると、残った可能性は一つだけだ。
瑞姫=不審者であり、瑞姫が私の命を狙っているという可能性。
瑞姫が水鉄砲を人殺しの道具として使用するなんて、あり得ない。
瑞姫は悪戯好きだが、その悪戯の内容はどれも可愛いものばかりだった。
どちらかと言ったら、歳桃のドッキリの方が可愛くないものばかりだった。
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