1.桃の香りを嗅ぎ、梨の皮に目印をつける

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 私は全く納得できないまま、(たまきか?)と口パクで歳桃に質問する。  (お馬鹿)。歳桃は無音で口を動かす。器用な奴だ。私より口パクの仕方が上手かった。  多分だが、不正解だから馬鹿にされているわけではあるまい。  むしろ正解だから、たとえ口パクでも名前を出すな。君って本当に馬鹿だよねぇ。  あれ、おかしいな。歳桃の口パクの意味を予想しているだけなのに、だんだん腹が立ってきた。  それに、だ。瑞姫までこの歳桃を好きになるなんざ、納得できない。  歳桃のことを好きなふりしているだけor瑞姫は歳桃の本性を知らないから外面の良さに騙されて好きになっちまっただけだ。  私に言わせれば、歳桃は外面そんなに良くないし、胡散臭い笑顔を振りまいているようにしか見えない。 「それで?」  私は煽るように眉を上げて、口の端を吊り上げて笑った。 「瑞姫の告白ドッキリにまんまと騙されて実は今も凹んでるっていうことか? 精神的に凹んでんならそのお綺麗な顔面も物理的に凹ませてやろうか?」  歳桃はじとーっとした目つきで私を見下ろした。 「何怒ってるの。ドッキリじゃないから。もちろん、二つ返事でオッケーしたさ。でも瑞姫は付き合えないって謝ってきてね」 「はぁ?」  歳桃の話が予想外の方向に進んだのでついていけず、我慢する間もなく素っ頓狂な声が出た。 「両想いだってことが分かったのに付き合えない? じゃあ恋人同士になりたくて告白したわけじゃないってことか?」 「今すぐには付き合えないと言われてね。瑞姫は例の噂をすっかり信じ込んでいる。君との噂のせいで交際をお預け状態にされているのだよ」 「へえ? 例の噂って具体的にどんな噂だ?」  私は噂を知らないていで、歳桃に言わせる目的でわざと質問する。 「君も知ってる通り、僕と君が恋人同士だという、迷惑・失礼極まりない、気持ちの悪い噂のことだよ」  歳桃と私が喧嘩してる最中、生徒たちは必ずと言ってよいほど。  ケンカップルだの、熟年夫婦の喧嘩だの、犬の戯れ合いだの、いちゃついてるようにしか見えないだの、通り過ぎざまに好き勝手言いやがる。  噂の発生源を歳桃が特定できないわけがない。  歳桃の奴が裏から手を回して噂の火消しをすると思ったから、任せるかと思って私は放置してた。  しかし、歳桃も放置してたことが一昨日判明した。  こんなに広まる前に、完全否定しておくべきだった。  私としたことが対処するのが遅れた。 「だが歳桃。そう思ってんのはテメェだけじゃねぇんだよ」  凄みつつ私は自分の胸元を親指で指し示した。
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