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「誰のことだい?」
歳桃はすっとぼけたが、すぐに笑いをこらえきれなくなったようにくふっと笑った。
いつもの胡散臭い笑顔はどうも苦手だが、この笑い方と面は悪くはねェ。
歳桃がきっと睨みつけてくる。
「とにかく、この僕が何故かお預けを食らってるのは君のせいなのだからね」
歳桃は睨むのをやめて、顎に手を当てて困り果てたように笑った。
「瑞姫は今のまま僕と付き合えば二股になってしまうのではないかって本気で心配してる」
「瑞姫は……心配性だったんだな」
正直意外だ。瑞姫が心配そうな顔をしているところを見たことがない。
だが、それは私の知る限りという話で、瑞姫が人前でそういう顔をしないように頑張っていただけかもしれない。
「うん、そうなのかもね。僕と君との間には何もない。だから絶対に二股にはならないって言ってもまだ不安がっていて。
たとえ、本当に二股にはならなかったとしても、付き合った後に僕が君を好きになる可能性はゼロとは言いきれない。
ほんの少しでも気持ちがある状態だと遅かれ早かれ二股になってしまう。
お互いに完全に気持ちがないことを確認し合って欲しい。
僕と君が、お互いに向ける感情を明らかにさせて欲しい。僕たちのためにもはっきりさせた方がいい。
あんな真剣な眼差しで頼まれたらさすがに断れなかった」
歳桃がふふっと軽く笑う。目を細めているのは多分思い出している。
「面倒くさがり屋のテメェが人の頼み事を断らねぇなんて、珍しいこともあるんだな。雨が降るんじゃねぇか」
歳桃はこくりと頷く。
「君の上から降り注いで君だけをびしょ濡れにする大雨は降るね。僕の呪いの雨〜」
歳桃が恨めしや〜のポーズをした後、両手の指先を豪雨に見立ててやや激しく上下に動かした。
「そんな理不尽なものを意図的に降らすなよ」
「確かにこんなに面倒な確認作業を引き受けたのは珍しいことだ。僕だって、大好きな人の頼み事じゃなければ丁重にお断りしてるよ」
「大好き? テメェが瑞姫を?」
私は信じられなくて思わず苦笑しながら聞き返した。
「さっき二つ返事でオッケーしたって言っただろ? 大好きだよ。……瑞姫がそんなに心配なら今日確認するよ。実は、今日の放課後さやにドッキリを決行するつもりでいたんだ。だからちょうどいい。僕は瑞姫に向かってそう言い、その後こうも言った」
さや。平仮名呼び。これは合図ではない。
いつもの呼び方なら合図ではなく、仲間と同じように普通に漢字呼びなら、それは合図だ。
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