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「この屋上ドッキリの最中に、さやにバレないようにこっそり確認するよ。お互いに気があるのか、ないのか。……まあ、確認する前から結果は目に見えてると思うのだけど、これは瑞姫のためだ。僕に任せたまえ。必ずや、瑞姫が納得できる良い報告を持ってくるよ。頼んだこと、微塵も後悔させないから。僕が瑞姫に自信満々にそう言っても、瑞姫は喜んではくれなかった。戸惑いがちにこんなふうな返事をした」
歳桃は軽く咳払いをしてから続けて言う。
『さやちゃんは、放課後はいつも、H Rが終わったらすぐに友達と一緒に教室から出て行く。そのまま友達の家に行って遊んでるんじゃないかな? だとしたら、多分今日も屋上には行かないと思うよ。適当に理由つけて断らせてから、無理矢理屋上に連れて行くつもりなの?』
さやはまた平仮名呼びなので、これも合図ではない。その瑞姫の口真似が微妙に似てないのはわざとか?
わざとだとしても、瑞姫のことを馬鹿にしてるようには感じないのと、変に誇張しているわけでもないのと。2つの理由からギリギリ許容範囲内だ。
「さやは今日、友人たちから遊びに誘われても十中八九断る。僕がそう言いきると、瑞姫は『どうして断るの? 友達の誰かと喧嘩でもしたの?』と質問してきた。
瑞姫の質問に対して僕はこう返した。
さぁね。理由は本人に訊いて。瑞姫になら教えてくれるかもよ」
そこまで言い終えると、歳桃は左膝の上に自分の手をそっとのせて、片手だけでごめんの謝罪のポーズをした。
瑞姫は歳桃から私に関する情報を引き出すために、歳桃を探し出して話しかけた可能性が高い。
情報を引き出そうとする前に、運良く歳桃の口から入手して手間が省けたというわけだ。
歳桃はこの時点ではまだ、瑞姫が私を殺そうと企んでいることに気づいていなかったのだろう。
しかし、気づいていなかったとはいえ、不用意に情報を渡した自らの軽率な行動に、歳桃も多少は責任を感じていそうだ。
歳桃は自分の膝の上にのせていた手を今度は顎に当てると、話を再開した。
「瑞姫は見張り役を買って出た。僕は別に、貸し切りを徹底的にキープしようとは考えていなかったのだけどね。
彼女が『やりたい! やってみたい!』ってウキウキノリノリで挙手したものだから迷わず任せたのだよね」
てっきり私は歳桃の友人がやらされているものと勘違いしていたが、階段下の門番役は瑞姫だったらしい。
「瑞姫には確認が済み次第、僕が呼びに行くって伝えてあったのだけど。僕たちの様子が気になったのか、確認方法が気になったのか。待ちきれなくてこっそり見にきたようだね。瑞姫は意外とせっかちさんかな。今さっきドアを開けて慌てて閉じたのは、瑞姫だよ。君はびっくりしてたけど、びっくりする必要はない」
歳桃がその場から静かに立ち上がる。
「さて、確認も済んだ。僕は君に対して恋愛感情を抱いていない。君も同じだろう?」
「ああ」
私は頷く。嘘じゃない。私が歳桃に対して恋愛感情を抱くなど、天地がひっくり返ってもあり得ないことだ。
「僕にハグされても何も感じなかったかい?」
「……あの強制ロングロングハグのことか? いいや、なんも感じなかった」
私がそう答えると、歳桃は無表情になる。
一拍置いて、歳桃は無表情のまま、ナチュラルな動作で私の右手を取る。
そのまま自分の顔を私の手に近づけてきて。一体何をする気なんだと不審に思っていると、歳桃は私の手の甲に唇をそっと、強く、押しつけた。
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