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「この世で一番美しい花を作りたい」 植物の研究者の父を持つ私は、その影響か、小さい頃からとにかく花が大好きで、そんな事を言って、いつも父の研究室に入り浸っていた。 そして、父に手伝って貰いながら、色々な植物同士を交配させて、理想の花を咲かせる植物を追い求めていた。 夜の闇の中で妖艶に光り輝き、花びらからは、星のようにキラキラとした光の雫が零れ落ちるような、雪のように真っ白な花。 それが私が求めた理想の花。 私だけの妖艶で美しい花。 もちろん簡単には作り出せる訳ないし、一生をかけても無理かもしれない。それでも私は諦めなかった。諦めたくなかった。 だけど、失敗が続くとやっぱり落ち込み、諦めてしまおうかと弱気になった。 そんな時だった。 それは突然に私の前に現れた。 朝目覚めると、窓辺に置いた植木鉢に、昨日芽吹いたばかりの小さな植物とは思えない、ひと周り以上大きく育った植物が…。 これは私の育てていた植物じゃない。 「ありえない…」 誰かが自分が寝ている間に鉢を入れ替えたのか。それとも突然変異?どちらにしても怪しさしかない。だけど何故か、これが順調に育って蕾をつけて、花を咲かせることが出来れば、私の求める理想の花を見ることが出来る、そう思った。 その植物からも、そう言われたように感じた。 「お父さん!今までにない新しい植物が生まれたかも!」 父には、自分の交配で生まれた植物だと嘘をつき、私は毎日毎日その植物に話しかけ、寝る間も惜しんで大切に育てた。 母に求められた、勉強も塾もピアノ教室も全部投げ出して。 そんな日々を過ごしていたある日、私を自分の理想の道に進めたいと思っていた母は、道を逸れた私を理想の道に戻すために、私の命のような、愛おしいその植物を、勝手に持ち出して捨ててしまった。 父もまた、私が新種の植物を生み出すという、自分が出来なかった事をした事に嫉妬して、陰で母に手を貸していたのだった。 私は母が捨てたという場所まで行き、家に連れ戻されるまで、真夜中まで探したが、大切なあの植物を、見つけ出すことは出来なかった。 それからの私の世界は、色のない無意味なものになり、ただただ時間だけが無駄に 流れて行くだけだった。
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