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「叶さん、君が好きだった」
無数にある恋物語のなかで、きっと一番無様で格好悪い告白だった。拭おうともしない涙が顎を伝って机に落ちる。でも君がまっすぐに見つめ返してくれるから、今度は絶対に目を逸らしたりしない。
「私も一葉くんが大好きだった」
世界でいちばん美しい笑顔で、金色に光る。あの日手に入らなかった君のこころが此処にある。
「一葉くん」
「叶さん、」
「もう待ち合わせはしないよ。またね、も言わない。さようなら」
からん。
僕のすぐ下で、グラスの氷が解けて音を立てた。その瞬間に、彼女が金色の粒子になって、空気に溶けて消えた。
ぬるんだカフェオレと、深緑の文庫本と、陽のおちる空席と。それだけのこして。
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