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1時間ほどかけて涙がやっと止まり、ぼくは薄まり切ったアイスコーヒーを頂いてから、立ち上がった。店主は、その間ずっとカウンターから出たり喋ったりせずに、僕を放っておいてくれた。
「長く居座ってしまい、すいませんでした」
「いいえ。お求めの時間を過ごすことが出来ましたか?」
「――はい。10年かかりましたが、このお店のおかげでようやく前に進めそうです」
「それは良かった」
にっこりと目じりの皴を深めて笑う店主に、2人分のお代を払う。
「あの……さっきの彼女は、幽霊だったんでしょうか」
「さあ、霊感のようなものは私にはありませんから……よく分からないんです」
「僕のように、死んだ人に会えた人はたくさんいるんですか」
「ごく稀に、ですよ。そういう目的でいらっしゃっても、会えない方の方が多いです」
店主は僕が腕に抱えている、文庫本を見つめる。
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