喫茶aveで、会いましょう

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「……うん、何処かで此処のことを聞いていらっしゃったのかな。()()()()()()()()()がご入用ですか?」  その眠たそうな目でじっと見つめられることは、不思議と不快ではない。ただふたたび後ろめたくなって、「ごめんなさい」と思わず謝った。  店主は「いえいえ」と慌てた様子で手を振りながら、カウンターから出て席へ案内してくれる。「では、こちらへどうぞ」と指し示されたのはあの窓際の、陽の当たる席だった。 「お求めのモノをお出しできたらいいんですが……絶対だと約束は出来ないんです、申し訳ない」  そう言いながらメニューを僕の前に開いてくれる。きっと店主の言葉は、僕が聞いた噂話のことだ。まことしやかにごく一部で語られる、『死んだ人に会える』というあの噂。僕こそ申し訳ない。こんなにも善い人に、怪しげで邪な目的のせいで、気を遣わせている。 「……とんでもない。おかしな噂話なんかをきっかけにお邪魔してしまって、すいません」 「いいえ、ごくたまにいらっしゃるのですが、迷惑に思っておりませんよ。細々やっている店ですから、ありがたいことです」  そう言ってくれる店主の物腰はどこまでも柔らかい。目をさらに細める店主と、落ち着いた空気が満ちるこの店のことが、もう僕は好きになっていた。我ながら現金なことだ。たとえ”彼女に会えなかった”と落胆することになっても、僕はまた此処に来たいと願うだろう。
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